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松山地方裁判所 平成5年(ワ)387号の1 判決 1998年3月31日

愛媛県八幡浜市<以下省略>

原告

X1

右同所

原告

X2

右同所

原告

X3

右原告三名訴訟代理人弁護士

真木啓明

薦田伸夫

高田義之

友澤宗城

菊池潤

三井康生

藤田育子

東京都中央区<以下省略>

被告

国際証券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

竹越健二

松下照雄

川戸淳一郎

白石康広

主文

一  被告は、原告X1に対し金一三七九万七八四七円、原告X2に対し金一一六七万五五二〇円、原告X3に対し金六三五万七四四二円、及び右各金員に対する平成五年七月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分して、その四を原告らの、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。但し、被告において、原告X1に対し金五七〇万円、原告X2に対し金四八〇万円、原告X3に対し金二六〇万円の各担保を供すれば、右各仮執行宣言を免れることができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告は、原告X1に対し金七二五一万二六六八円、原告X2に対し金七三七〇万五五〇七円、原告X3に対し金二七一〇万一三六一円、及び右各金員に対する平成五年七月一六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告からワラントを購入したが、その価格の低落もしくは権利失効により、投資資金の殆ど全部を失った原告らが、右損失は被告従業員の違法な勧誘行為たる、(一) 説明義務違反、(二) 適合性原則違反、(三) 虚偽ないし誤解を生ぜしめる行為、等の結果として生じた損害であると主張して、被告に対し、不法行為(使用者責任)ないしは債務不履行に基づく損害賠償金の支払を求めた事件である。

一  争いのない事実

1  当事者

(一) 原告X1は、住居地でプロパンガス販売業を営む有限会社新地商店の代表取締役、原告X2はその妻、原告X3は同夫婦の長男として、数年前から原告X1に代わり右事業の実質的な経営を行っている者であり、いずれも、原告X2を通じ、被告との間で、ワラント売買取引を行った者である。

(二) 被告は、肩書地に本店を置き、有価証券についての自己売買、売買の委託の媒介、取次、代理、引受、売出、募集又は売出の取扱いについて、大蔵大臣から免許を受けた証券会社である。

2  ワラントの意義

(一) ワラントとは、新株引受権を表章する証券もしくは新株引受権自体のことをいい、その権利内容は、ワラントの所持者が、一定期間(権利行使期間、なお「権利行使期限」ともいう。)内に、一定価格(権利行使価格に権利行使株数を掛けた金額)の金員を払い込むことによって、ワラント発行会社の新株式を、一定数(権利行使株数)取得できるものである。

(二) ワラントの価格は、一般的には、発行会社の株価の上下に連動して上下する傾向があり、ワラントの価格が変動する幅は、株価に比べて大きい。また、ワラントには、新株引受権を行使すべき期限(権利行使期間)が定められているため、権利行使をしないまま右期間を徒過すると、新株引受権は失効してワラントは無価値となる。

3  原被告間の取引経過

(一) 原告らは、昭和四九年から五二年にかけて、被告の前身である野村證券投資信託販売株式会社に、原告ら名義の取引口座を順次開設し、以後専ら原告X2において、原告X1及び原告X3の一任の下に、原告らと被告との間の証券取引を行うようになった。

(二) 原告らは、平成元年七月から平成三年四月にかけて、被告松山支店長B、被告松山支店の従業員Cの勧誘を受けて、別紙取引一覧表(一)ないし(四)(以下「別表(一)ないし(四)」という。)記載のとおり、ワラント売買取引(以下「本件取引」という。)を行った。

二  当事者の主張

1  被告の責任

(原告らの主張)

(一) ワラントの危険性

ワラントは、その特質として、次のような危険性を有する証券である。

(1) 権利行使期限があることによる危険

① 権利行使期限徒過による無価値化の危険

ワラントの投下資本回収方法は、新株引受権の行使とワラントの転売との二通りがあるが、そのいずれの手段を講ずる上でも、権利行使期限という時的限界があり、これを過ぎるとワラントは無価値になる。

② 時の経過による価値低落及び流通性減少の危険

権利行使期限の経過前でも、ワラント価格は、一般に権利行使期限が近づくにつれて低落し、特に権利行使期限が二年を切ると、その流通性自体が極端に低下して売却が困難となり、行使期限前でも、殆ど無価値近くにまで価格が低落する危険がある。

(2) 価格変動(投機性)が大きいことによる危険

ワラント価格は、一般に株価より価格変動が激しい。その原因は、ワラントの本質的価値である権利行使価格と株式時価との価格差(理論価格〔パリティー〕)の変動率が、株価自体の変動率よりもはるかに大きい(ギアリング効果)という、ワラントの商品構造的特質があるほか、株式よりはるかに規模が小さいワラント市場では、局所的な人気の高低が容易に価格に反映されるという実態がある。

(3) プレミアム付きでワラントを購入することによる危険

① プレミアム形成要因の不明瞭さに起因する価格低落の危険

現実のワラント価格は、理論価格(パリティー)とともに、その人気度(当該ワラントないしは株の値上がり期待値)を示すプレミアムによって形成され、パリティーの上下動は株価の動きに対応するのに対し、プレミアムは主として株価の将来的変動予測(期待値)を反映するほか、その余の不確定要因によっても少なからぬ影響を受けていると考えられ、その形成要因、変動要因は明らかでない。

したがって、ワラント価格の変動予測は極めて複雑困難であり、株価が上昇しても、ワラント価格は容易に低落する危険がある。

② 株式をプレミアム相当分割高に購入予約することによる価格低落の危険

ワラントの本質は、権利行使期間内に権利行使価格で株を購入する予約完結権にほかならないから、パリティー(権利行使価格と株式時価との価格差)を越えるプレミアムの意味は、権利行使期間内に、株式時価より割高に株を購入する予約をするに等しいものである。

したがって、株価が値上がりした場合でも、もともとプレミアム相当の値上がり分はワラント価格に折り込み済みのものであるため、株価がプレミアム相当分を越えて更に値上りするとの期待が持たれない限り、逆にワラント価格は値下がりをする危険を免れない。

(4) 為替変動による危険

外貨建ワラントは、円建てで収益を上げる上で常に為替変動による危険を負い、円高時にはワラント価格上昇による収益額も減殺される。

(二) その他のワラントの問題点

(1) ハイリターン性に対する根本的疑念

実証的に検証すると、ワラントに対する投資効率は、株式の場合と比較して必ずしも高いとは認められず、一般に証券会社が喧伝するほどのハイリターン性があるとはいえない。

(2) 時価評価把握の困難性

ワラント価格は、額面に対するパーセンテイジたる「ポイント」単位で表示されるため、具体的現在額を算出するには一定の計算を経なければならず(外貨建ワラントの場合には、これに為替レートの変動という要素も加味される。)、時価金額の把握が困難である。

(3) 相対取引であることによる問題点

外貨建ワラントは、証券会社の店頭で、証券会社との相対取引によって売買され、原券を所持することも少ないので、顧客は同一証券会社を唯一の相手方として売買取引をすることになるが、商品構造的に、売買の対立当事者となる顧客と証券会社との利害は相反することとなり易く、かかる状況下では、証券会社に、顧客の利益に配慮した適切な投資アドバイスを期待することは困難であり、かえって、顧客に不利な売買を勧められる危険が常に存在する。

また、証券会社は、ワラント取引に際し、その売値と買値の差額を収益としているが、右差額幅が社団法人日本証券業協会(以下「日本証券業協会」という。)によって一・五ポイントに制限されたのは、平成二年九月二五日以降のことであり、それ以前は、各証券会社が自由に値幅設定をして自己の高収益を図れる立場にあった。ワラント価格形成過程における公正さが、十分担保されているとはいえない。

加えて、ワラントの売値・買値の参考とされる気配値自体、その形成過程が判然としないうえ、顧客がその気配値の情報を入手しうるのは、株取引の専門紙以外では、日本経済新聞紙上に発表される銘柄(しかもポイント表示)のワラントに限られており、顧客に対する情報開示が不十分である。

(三) 説明義務違反

(1) ワラントは、前記(一)(二)の危険性、問題点を抱えているために、個人投資家にとって、ワラント取引は、複雑かつ不公正で、損害を被る可能性の高い極めて危険な取引となっている。

にもかかわらず、ワラントは、本件取引当時、普通の個人投資家を相手に発売されてから、さほどの期間が経過していないため、その商品構造につき周知性がなく、それを補うに足りる情報も開示されていないために、個人投資家(顧客)にとって、的確な投資判断を行うのが極めて困難な商品となっていた。

したがって、被告がかかる商品を個人投資家に勧める場合には、当然に、顧客に対して、ワラントの商品構造、取引の仕組み、価格に関する情報、危険性の程度及び内容等について、一般的な説明だけでなく、取引対象となった個々のワラントに即した具体的な説明をすべき法的義務があった(日本証券業協会制定の公正慣習規則第九号六条、第一号三八条、第四号三条等参照)。

(2) 具体的には、被告には、次の事項につき説明すべき義務があった。

① ワラントとは新株引受権を表章する証券であること。そして、そのワラントを購入することの意義は、現在いくらの株式を、権利行使期限内に、権利行使価格たる一定の価格で購入できる権利を、一株あたりいくら(ワラント価格を権利行使株数で除した金額、以下「ワラントコスト」という。)で購入するものである、ということ

② 権利行使期限後はワラントは無価値となり、期限前でも期限に近づくにつれ、その価値は次第に低下する傾向があり、特に株価が権利行使価格を下回っている状態(マイナス・パリティー状態)で期限に近づくと、ワラント価格は期限前でも無価値近くまで低落すること

③ 値動きの振幅が株価以上に大きいこと

④ 外貨建ワラントは為替変動の影響を被ること

⑤ 外貨建ワラント取引は、顧客と証券会社との相対取引であり、取引の相手方となるのは当該証券会社に限定され、証券会社が取引に応じない場合は処分が不可能となること

⑥ ワラント価格情報の入手方法、入手した価格情報(気配値)の意味、ポイントの意味、ワラント価格の計算方法

(3) しかるに、Cは、ワラント取引に関して全く無知であった原告X2に対し、右ワラントの商品構造や危険性について何らの説明もせず、かえって、「ワラントは転換社債の株の方である。」「ワラントは危険なものではない。」「株が下がっても、ワラントには一定の歯止めがあるから大丈夫だ。」等と、事実と異なる虚偽の内容の説明をして、ワラントを勧誘し、また、Bも、被告松山支店長として、「自分が責任をもって運用し、損を取り返す。」等と述べただけで、何らワラントの商品構造、危険性を説明することなく、ワラント購入を勧誘しているのであるから、右説明義務を尽くしていないことは明らかである。

(四) 適合性の原則違反

証券会社は、顧客の個人的属性、すなわち、その資産状態、資金の性格、投資目的や趣旨、投資経験の有無・程度・内容等に照らし、最も適合した投資勧誘を行わなければならない(適合性の原則・証券取引法五四条一項一号、昭和四九年一二月二日付蔵証二二一一号通達、公正慣習規則第一号三六条、第九号五条等参照)。そして、ワラントのような危険性が高く、複雑な金融商品を取引できる者は、その商品構造や危険性を熟知し、情報源や資金力を十分に有して証券会社と対等に取引できる者に限られるべきである。

原告X2は、尋常高等小学校を卒業後、何らの職歴、社会経験もないまま結婚し、時に家業の電話番程度の手伝いをするほかは、専ら主婦業を行うに過ぎなかった老女であって、金融取引や証券に関する知識に乏しく、その保有する資産も老後の生活資金であった。加えて、原告X2は、かねてより、Cに対し、危険なものは勧めないよう申し入れていたのであるから、およそ、ワラント取引に適合するような顧客ではなかった。

しかるに、C及びBは、原告がワラント取引に不適合であることを十分認識していながら、前記のような高い危険性を有するワラントを勧誘し、これを購入させたのであって、その行為は適合性の原則に違反する。

(五) 虚偽の表示又は誤解を生ぜしめる行為の禁止違反

有価証券の売買に関し、虚偽の表示をし、又は重要な事項につき誤解を生ぜしめる表示をしてはならない(平成三年法第九六号による改正前の証券取引法五八条二項、昭和四〇年一月五日大蔵省令第六〇号、公正慣習規則第八号第九条三項五号等参照)。

しかるに、Cは、原告X2に対し、ワラント取引を勧誘するに当たり、必要とされる前記説明を尽くさなかったばかりか、前記(三)(3)記載のとおり、虚偽の内容の説明をして、有利な投資であることを強調し、原告X2に転換社債の売買と同様な安全な商品であると誤解させて、ワラントを勧誘している。これは、明らかに虚偽又は誤解を生ぜしめる行為に該当する。

(六) 常識的な投資手法に反した不合理な勧誘行為等

CやBは、ワラント取引の危険性を全く理解しておらず、老後の生活資金のために安全確実な投資をすることを希望していた原告X2の意思に反し、かつ、常識的な投資手法にも反して、被告が高収益をあげるために、専ら危険性のみ高く収益性の少ない、次のような不合理な取引を積極的に勧誘した。右は故意か、少なくとも重大な過失に基づく違法な行為である。

(1) 比較的安全な株式や投資信託等の殆どを売却させたうえ、前述のように極めて危険で、機関投資家でさえ投資比率を一パーセント未満に抑えると言われているワラントに、預かり資産のほぼ全額を資本投下させた。

(2) 値上りしたワラントだけは、短期間に売却して少額の利益を上げ、右利益を全て新たなワラントに投資させて、取引の拡大を図る一方で、多額の評価損が出ているワラントについては、その事実を原告X2に告げることなく放置したあげく、権利行使期間徒過により失効させた(因果玉の放置による客殺し)。

(3) ワラントは、実証的見地からして、一般に株式より高い投資効率を有しているとは認められず、逆に危険性だけは極めて大きいという、いわばハイリスク・ローリターンの証券であるところ、CやBが原告X2に勧誘したワラントは、その中でも特に高プレミアム・マイナスパリティーワラントで、行使期限の短いワラントが多く、より一層危険で、一層収益性の低い劣悪なものばかりであった。

(被告の反論)

(一) ワラントの危険性について

ワラントが、① 権利行使期限を徒過すると無価値化する、② 時の経過に伴い価値が低落する傾向がある、③ 価格変動(投機性)が大きい、という特質を持つ証券であることは認める。

また、④ 外貨建ワラントの価格は、為替変動の影響を受ける、⑤ ワラント価格にプレミアムが含まれていて、その形成ないし変動要因が不確定であることも認める。但し、権利行使価格及び権利行使株数は、為替変動の影響を受けることなく一定である。また、およそ証券価格が為替変動の影響を受けるのは、外貨建て有価証券には共通したリスクであるし、ましてや、証券価格にプレミアムが含まれ、かつその変動予測が困難であることは、全ての有価証券に共通の事由であって、ワラント取引だけに特徴的な危険というわけではない。

(二) その他のワラントの問題点について

原告らの主張(1)は争う。株取引よりワラント取引の方が投資効率が良く、ハイリターン性があるのは、間違いない事実である。

原告らの主張(2)のうち、ワラント価格がポイント表示で示され、その具体的金額を算出するのに一定の計算を要することは認めるが、その余は争う。

原告らの主張(3)のうち、外貨建ワラントが店頭での相対取引によって売買されること、ワラント取引における証券会社の収益は、その売値と買値の差額によること、その差額幅が一・五ポイントに制限されたのが、平成二年九月以降であることは認めるが、その余は争う。

(三) 説明義務違反について

(1) 証券取引において、投資家は、自ら商品の内容や特性等を調査し、そのリスクを承知の上で取引を行い、そこから生じた利益は全て取得すると同時に、それによって生じた損失についても、全て自らが負担するという自己責任を負っている。証券会社は、投資家からの指示に従って、有価証券の売買や、注文の執行、受渡し等を行う立場にあるに過ぎない。

よって、証券会社が顧客に対して商品の内容や性質等の説明を行っているのは、一般に証券会社が行う単なるサービス業務に過ぎず、顧客に対する積極的な義務として行う法的責任を負っているものではない。

原告らが主張する説明義務の内容は、証券会社に対し、投資家が絶対に損失を被らないような説明を行う旨の作為義務を課するものであり、かかる義務は、証券取引法や原告ら摘示の公正慣習規則上、全く予定されていないものである。

(2) もっとも、ワラントが既存の証券にない商品構造と危険性を持つ新規商品であることからすれば、例外的に信義則上、証券会社が一定の説明義務を負う場合もありうるが、その場合でも、法的義務として要求される説明事項は、既存証券と相違するワラント独自の危険性、すなわち、① 権利行使期限徒過による権利消滅の危険と、② ワラント価格は株価と連動するものの、その変動幅は株価より大きいという、ワラントの価格変動の危険、の二点のみに限られる。

(3) Cは、本件取引を行うに先だち、原告X2に対し、約一時間にわたり、ワラントの特質及び危険性等につき、右(2)①②の点を含む次の事項を詳しく説明した。

① ワラントは株式を引き受ける権利であること

② 権利行使期限が定められており、期限を過ぎると無価値となること

③ ワラント価格は、理論値と期待値から構成され、その銘柄の株価に連動して上下するが、株式や転換社債より値動きの幅が大きくなる傾向があり、ハイリスク・ハイリターンであること

④ ワラント価格はポイントで表示されること、ポイントを円換算するための計算式

⑤ 外貨建ワラントの価格は為替変動の影響を受けること

加えて、ワラントの商品構造、危険性を明記した二種類の取引説明書を交付し(確認書徴求済み)、さらに、最初のワラントを買い付けた直後に、原告X2の要求に応じて、ワラントの商品性に関する再度の説明を行っている。

よって、C及びBに、ワラント勧誘に際しての説明義務違反はない。

(四) 適合性の原則違反について

(1) 原告らが適合性原則の根拠として摘示する証券取引法や公正慣習規則等は、個人投資家の私益保護を目的として定められたものではなく、適正な市場の形成、発展という公益目的のために制定されたものである。

したがって、これら諸規定によって証券会社が負わされている不作為義務は、証券市場全体を名宛人とするものであり、その違反行為があったとしても、証券会社の内部処分が問題となるに過ぎず、特定の投資家に対する私法上の損害賠償責任を生ぜしめるものではない。

(2) また、原告X2は、本件取引より十数年前から、複数の名義口座において被告との証券等取引を開始し、以後多数回にわたり、現物株や外国株等の投機性ある証券を含め、他種類かつ多額の証券等取引を行い、時に相当の損失を出す経験も経るなど、相当の投資経験を有していた。

そして、右取引においては、自分自身で新聞等により株式等の値動きを把握し、取引銘柄やその時期を判断し、被告担当者による勧誘も独自の判断から断ることも多いなど、十分な投資判断能力も備えていた。

加えて、その一回あたりの投資金額は、ときに一〇〇〇万円規模にも及ぶ大きなもので、被告に預託した原告らの総資産の規模も少なくとも二億数千万円、家族名義のものも含めれば優に三億円を越していた。原告らは、他にも複数の不動産を所有するなど、十分な資産を保有していた。本件取引の原資となったのも、特段の使途目的もない余裕資金であった。

したがって、原告らがワラント取引への適合性を欠いていたことなどありえない。

(五) 虚偽の表示又は誤解を生ぜしめる行為の禁止違反について

証券会社に、有価証券売買等に関し、積極的に顧客に虚偽の表示をし、又は重要な事項につき誤解を生ぜしめる表示をしてはならないという不作為義務があることは認め、原告らのその余の主張は争う。

(六) 常識的な投資手法に反した不合理な勧誘行為について

原告らの主張は争う。

原告らが、その資産のうちどれだけを、いかなる種類のいかなる銘柄の証券等に投下し、また、いかなる時期にいくらで売買するか等は、全て原告X2が判断し、決定したことがらであって、CやBの関与するところではない。

また、各取引の時点では、株式相場・ワラント相場動向の確実な予測は誰にもできないことを考えれば、評価益の出たワラントは確実に利食い、評価損の出たワラントは再騰を期待して様子を見、あるいは、相場反騰を信じて、投資コストの低い新たなワラントを購入することも、十分ありうる選択肢である一方、専ら被告の利益を図って、危険を顧客に押しつけることなどできるはずもない。

本件取引によって損失が生じたという結果論から、当時の相場動向に照らし、過去の特定の投資手法が不合理だったとか、ましてや、客殺しをしたなどと評価することは不当である。

2  原告らの損害

(原告らの主張)

(一) 原告らは、C及びBの前記1(三)ないし(六)の違法行為の結果、本件取引を行い、それによって、次のとおりの損害を被った。

(1) 原告X1分(別表(一)) 合計金七二五一万二六六八円

・本件取引による損害額 金六五九二万二六六八円

・弁護士費用 金六五九万円

(2) 原告X2分(別表(二)) 合計金七三七〇万五五〇七円

・本件取引による損害額 金六七〇〇万五五〇七円

・弁護士費用 金六七〇万円

(3) 原告X3分(別表(三)) 合計金二七一〇万一三六一円

・本件取引による損害額 金二四六四万一三六一円

・弁護士費用 金二四六万円

(二) よって、原告らは被告に対し、不法行為(使用者責任)又は債務不履行に基づく損害賠償請求として、右(一)記載の各損害賠償金、及びこれに対する平成五年七月一六日(訴状送達の日の翌日)から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の反論)

(一) 相当因果関係の欠如

(1) 株式相場の下落による相当因果関係の断絶

原告らが購入したワラントの価値が下落したのは、平成二年初頭以降のバブル経済崩壊による株式相場全体の急落に伴うものに過ぎず、CやBの勧誘行為と、原告らの本件取引による損失との間に、相当因果関係はない。

(2) 原告X2の投資行動から見た相当因果関係の断絶

原告X2は、平成二年一一月九日、Bから、八九〇〇万円の評価損が発生していることを知らされ、さらに、平成三年二月初旬には、被告から、一億二三八〇万円余りもの評価損が発生していることを通知されて、ワラント取引の重大な危険性を十分に認識した後も、新たなワラント取引を行っている。

以上の原告X2の投資行動から見て、仮に、Cが、本件取引勧誘の際に説明義務を履行し、原告X2に対し、ワラント取引の危険性を十二分に説明していたとしても、原告X2は、やはり、右各取引をしていた可能性が極めて高いから、Cらの説明義務違反による勧誘行為と、原告らの本件取引による損失の発生との間には、相当因果関係がない。

(3) 予見可能な損失額についての相当因果関係の欠如

CやBに説明義務違反があり、その結果として、原告X2がワラントを購入したとしても、右違法行為の結果として原告らに生じた損失の範囲は、CやBの説明内容からは予想し得なかった損失額に限られる。

すなわち、原告X2は、ワラントが元本保証ではない価格変動商品であることを認識して、ワラントを購入しており、価格変動商品を購入する以上、相場変動に伴い一定の損失が生じることは当然予測し、覚悟していたはずであるから、その範囲内での損失額は、CやBの説明義務違反と相当因果関係のある損害とはいえず、原告X2自らの責任で負担すべきものである。

そして、ワラント購入の際に、原告X2が予測し、負担を覚悟していた損失額としては、原告らが本件取引の投資資金を得るために売却した株式や投資信託を、そのまま保有し続けていた場合でも生じたであろう損失額と同額程度、と推定することが可能である。

原告らがワラントを購入するのに投入した総資金額(本件取引による損失額)は、合計金一億五七五六万九五三六円であるが、その資金捻出のために売却した株式、投資信託を本訴提起時まで保有していたとしても、これらには、各ワラント購入時点と比較して金七五三五万〇九三八円の評価損が発生しているから、少なくとも、原告X2は、右評価損と同程度の損失が発生しうることは予測していた、というべきである。

よって、CやBの説明義務違反と相当因果関係を有する原告らの損失額は、本件取引による損失額から、右評価損額を差し引いた金八二二一万八五九八円を越えるものではない。

(4) 損切りを怠ったことによる損失についての相当因果関係の欠如

原告X2は、平成三年二月初旬、被告から、原告ら保有ワラントの時価評価額通知を受け、一億二三八〇万円余りに達する評価損が発生していることを知り、ワラント取引の危険性を十二分に認識している。

したがって、右平成三年二月初旬時点で残存していたワラント評価額四四三八万六一六五円、及びその後に新たに行ったワラント取引によって生じた損失金三五九七万七五一三円は、ワラントの危険を十二分に理解した原告X2が、自らの責任と判断で損切りを怠り、あるいは新規取引を行ったために、損失を発生ないし拡大させたものであり、CやBの勧誘行為と相当因果関係がない。

(二) 損益相殺

相当因果関係に関する前記主張が認められないとしても、原告らは、被告で保護預りにしていた株式や投資信託を売却して本件取引原資を捻出し、本件取引を行っているから、仮に原告らが本件取引を行わなかったとすれば、右金融資産をそのまま保有していたはずである。

そして、原告らが右金融資産を本訴提起時まで保有していたとしても、これらには、各ワラント購入時点と比較して金七五三五万〇九三八円もの評価損が発生しており、原告らは、本件取引を行うことにより、右金融資産の保有によって当然生じていたはずの評価損の発生を免れている。

よって、仮に、原告らに本件取引による損害が発生しているとしても、損益相殺の法理により、その損害額合計金一億五七五六万九五三六円から、原告らが免れた右金七五三五万〇九三八円の評価損額を控除すべきである。

3  過失相殺

(原告らの主張)

原告らは、職歴や投資歴等からして、十分な投資判断能力を備えておらず、常に安全確実な投資を希望し、CやBにも度々その意向を伝えてきた。

CやBは、原告X2のかかる投資判断能力及び投資性向を承知していながら、これに反し、かつ、ワラントの商品構造、危険性を全く説明せず、かえって、転換社債類似の商品で、その損失額にも一定の歯止めのある安全な商品である旨、虚偽の説明を行って、ワラントの勧誘を行ったうえ、特に劣悪な内容のワラントを多数購入させた。

また、本件取引開始後は、評価損の発生及びその金額を告知することなく、危険なワラント取引を次々拡大させ、何ら適切な投資アドバイスもしないままに、多額のワラントを失効させている。

CやBのかかる違法行為は、もはや故意に原告らへの危険の押し付け、損害の発生を意図した詐欺行為と評価され、本件取引につき原告X2に過失はなく、過失相殺が適用されるべき事案ではない。

(被告の主張)

原告らの主張は争う。

三  争点

1  本件取引勧誘行為における被告担当者の違法行為の有無

(一) 証券取引勧誘に際して証券会社が負うべき法的義務

(1) 証券取引における自己責任原則

(2) 証券取引における不法行為(債務不履行)責任の意義

(3) 説明義務と不法行為(債務不履行)責任

(4) 適合性の原則と不法行為(債務不履行)責任

(5) 常識的な投資手法に反した不合理な勧誘行為等と不法行為(債務不履行)責任

(二) 適合性原則違反の有無

(三) 説明義務の具体的内容

(四) 被告担当者の説明内容と説明義務違反の有無

2  原告らの損失と相当因果関係、損益相殺

3  過失相殺適用の是非とその割合

第三当裁判所の判断

一  ワラントの商品構造、危険性について

証拠(甲三一の1ないし4、三九の18の3、三九の38、一一〇ないし一三〇、一四三ないし一四五、乙一二、一三、六一、六六、一一六、一一七、一三六の1ないし5)、及び弁論の全趣旨によれば、ワラントの商品構造やその危険性について、次の事実を認めることができる。

1  ワラントの商品構造

(一) ワラントの意義とその本質的価値

ワラントは、権利行使期間内に、権利行使価格相当の金員を、権利行使株式数分払い込むことによって、新株式を右数量だけ購入することのできる権利であり、右権利行使価格と権利行使株式数は、ワラント発行時に既に決定されている。

したがって、ワラントが有する本質的な価値は、現実の株価が権利行使価格を上回っている場合において、右価格差相当分だけ、株式を時価より安価に購入することができる点にある。株価が権利行使価格と同じか、これを下回っている場合には、ワラントには右の意味での本質的価値はない。

ワラントは、もともと昭和五六年商法改正によって制度化されたワラント債(新株引受権が付加されている社債)から、新株引受権のみが分離独立して流通に置かれたものであるが、ワラント債から分離した国内(円建)ワラントが発行されるようになったのは昭和六〇年一一月以降のことであり、海外で発行された外貨建ワラントの国内取引が行われるようになったのは昭和六一年一月以降であって、証券会社が普通の個人投資家との間で、ワラントの売買取引を大々的に行うようになったのは、平成元年初めころ以降である。

外貨建ワラントは、外貨建ワラント債が海外において社債とワラントとに分離され、分離後のワラントが国内で取引されているものであり、証券取引所には上場されず、証券会社での店頭における相対取引(証券会社が直接顧客との間で証券売買をする取引)によって、売買されている。外貨建ワラントの原券は、ブリュッセルのユーロ債集中振替決済機構において保管されており、一般の個人投資家であれば、証券会社から発行される預り書の交付を受けるのみで、ワラントの原券を所持することは殆どない。

(二) パリティーの変動要因とワラント価格の株価連動性等

ワラントの本質的価値を表す指標が、ワラントの理論価格ないしパリティーと称されるもので、株式時価が権利行使価格より何パーセント高いかを示すパーセンテイジ、すなわち、株式時価から権利行使価格を差し引いた金額を、権利行使価格で除した数に一〇〇を掛けた数値(但し、為替変動を考慮しないものとする。)で示される。もっとも、割合(パーセント)表示では分かりにくいので、具体的想定例における日本円の金額で、その本質的価値を表現するとすれば、株式時価から権利行使価格を差し引いた金額ということになる。

例えば、株式時価七〇〇円の株式を五〇〇円(権利行使価格)で購入することのできるワラントがあったとすれば、この場合のパリティーは、株式時価七〇〇円と権利行使価格五〇〇円との差額二〇〇円を、権利行使価格五〇〇円で除し、一〇〇を掛けた数値である四〇(パーセント、あるいはポイント)となるが、この本質的価値と評価できる部分を金額で表示すれば、株式時価から権利行使価格を差し引いた二〇〇円ということになる。

このように、パリティーは権利行使価格と株式時価との格差の割合を示すものであるから、当然ながら、株価の騰落に直結して上下動し、株価が権利行使価格以下になるとゼロになる。ワラント価格が株価と連動して動く傾向を示す理由の一つはこの点にある。

そして、その場合のパリティーの変動率は、株価自体の変動率よりはるかに大きい。右パリティーの変動率の大きさが、一般に、ワラント価格が株価と連動しつつも、その変動幅は株価のそれより大きい、すなわち投資効率が高い(これを称してギアリング効果という。)、とされる理論的裏付けとなっている。

右の意を、先の具体的金額例における本質的価値の変動で示すと、株式時価七〇〇円の株式を五〇〇円(権利行使価格)で購入することのできるワラントがあるとき、株価が更に七〇〇円から一〇〇〇円まで上昇すると、その変動率は、約一・四三倍(一〇〇〇円を七〇〇円で除した数値)であるが、その時ワラントの本質的価値は、二〇〇円(時価七〇〇円から行使価格五〇〇円を差し引いた金額)から五〇〇円(時価一〇〇〇円から行使価格五〇〇円を差し引いた金額)に上昇しているので、その変動率は二・五倍である。

逆に、株式時価が七〇〇円から六〇〇円に低落すると、株価の変動率は約〇・八五倍(六〇〇円を七〇〇円で除した数値)だが、その時のワラントの本質的価値は二〇〇円(時価七〇〇円から行使価格五〇〇円を差し引いた金額)から一〇〇円(時価六〇〇円から行使価格五〇〇円を差し引いた金額)に減っているので、その変動率は〇・五倍である。

そして、株式時価が五〇〇円以下になったとき、これを五〇〇円で買うことのできるワラントの本質的価値はゼロとなる。すなわち、ワラントを行使して株を取得しなくても、市場の時価で株を購入すればよいことになる。

現実にも、一般に高パリティーのワラントであればあるほど、ワラント価格は、株価と連動し、かつ、これより高い割合で変動し易いという傾向を有しており、右投資効率の高さが、ワラント投資の最大の利点であると同時に、リスクの大きさの表れともなっている(ワラントのハイリスク・ハイリターン性)。

(三) プレミアムの意義とワラント権利行使の損益分岐点等

しかしながら、ワラントの現実の価格は、ほとんどの場合、その本質的価値を越える値段が付く。例えば、株式時価七〇〇円の株式を五〇〇円(権利行使価格)で一株購入することのできるワラントの本質的価値は、一株あたり二〇〇円だが、実際のワラント価格は二〇〇円以上、例えば一株あたり三〇〇円で売られることになる。

したがって、ワラント購入後直ちに権利行使して株式取得することを想定した場合、ワラント購入者は、その本質的価値を越えるワラント価格相当分について、余分な出費を強いられることになる。先の具体的金額例を見れば、三〇〇円のワラント価格のうち、本質的価値たる二〇〇円を越える一〇〇円分は余分な出費である。

株式時価に比べ、ワラントを行使して一株式を取得する場合にかかる総費用額(権利行使価格に、ワラントコスト〔ワラント価格を権利行使株数で除した価格〕を加えた金額、以下「株コスト」という。)が、どれだけ割高かを示すパーセンテイジ(株コストと株式時価との差額を、株式時価で除したものに一〇〇を掛けたもの。)が、ワラントの乖離率ないしプレミアムと呼ばれるものであり、当該ワラントの人気度を示す指標にもなる。

例えば、株式時価七〇〇円の株式を、五〇〇円(権利行使価格)で一株購入することのできるワラントを、一株あたり三〇〇円で購入した場合、ワラントを権利行使して株式を取得するのにかかる総費用額は、権利行使価格五〇〇円と、ワラント購入代金三〇〇円を足した八〇〇円で、その場合のプレミアムは、株コスト八〇〇円と株式時価七〇〇円の差額一〇〇円を、時価七〇〇円で除し、一〇〇を掛けた数値である約一四・二八(パーセント)になる。

すなわち、プレミアム付きのワラントを購入するということは、右プレミアム分、時価より割高に株式を購入することにほかならない。先の例で見ると、時価七〇〇円の株式を、プレミアムである約一四・二八パーセント割高の八〇〇円で購入する、という意味である。

したがって、ワラントによる権利行使を前提とした場合に、ワラントの購入によって収益をあげるための損益分岐点は、株価が株コスト(権利行使価格とワラントコストの合計額)と同金額まで上昇することであって、株価が右金額以上に上昇しない限り、ワラント投資は損失を生ずることになる。

例えば、権利行使価格五〇〇円のワラントを三〇〇円で購入した場合は、その後に当該株式の時価が、株コストである八〇〇円にまで値上がりをしない限り、ワラントを購入して権利行使することは損失を生じることになる。右の例で、株式時価が七〇〇円のままなら、ワラントを買って権利行使するより、市場で時価七〇〇円の株を買った方が安くつくからである。

しかも、ワラントは期限付き商品で、権利行使期限を徒過すると失効してしまうために、損益分岐点(株コスト)以上の株価の上昇が、右権利行使期間内に起こらない限り、やはりワラントを権利行使して収益を上げることはできないのである。

右ワラントの商品構造に照らせば、プレミアム付きのワラントを購入することの意義は、権利行使期間内に、権利行使価格で、株式を購入する予約をして、ワラント価格相当の手付金を支払ったことに等しく、その場合のワラントの権利行使が、予約完結権の行使と同義であるということができる。例えば、株式時価七〇〇円の際に、権利行使価格五〇〇円、権利行使期間残り三年のワラントを、三〇〇円で購入するということは、時価七〇〇円の株式を、今後三年以内に五〇〇円で購入することを予約して、その手付金三〇〇円を支払うに等しい、というわけである。

なお、プレミアムもやはり割合(パーセント)表示のため分かりにくいが、これを具体的想定例における日本円の金額で表すとすれば、株コスト(ワラント権利行使の損益分岐点)から株式時価を差し引いた金額が、日本円で示すところのプレミアムであると言うことができる。先程来の例で言えば、株コスト(損益分岐点)八〇〇円と、株式時価七〇〇円との差額金一〇〇円が、プレミアムを示す金額と言うことができる。

(四) プレミアムの変動要因とワラント価格の株価連動性等

(1) プレミアムと株価の関係

プレミアムを形成する要因の主たるものには、株価の先高期待感(権利行使期間内にもっと株価が上昇し、パリティーが増大するであろうという期待)があると言われる。したがって、一般には、株価がこれから上昇しようという上昇局面ではプレミアムも増大し、株価の下降局面ではプレミアムも減少すると言うことができる。ワラント価格が株価と連動する傾向を持つ理由の二つ目はこの点にある。

しかしながら、プレミアムは、あくまでも株価の将来の上昇期待を反映するものである。そして、現に株価が上昇し、高値になればなるほど、当該株価は最高値に近づき、それ以上の上昇は期待できない、という判断を招きやすくなるから、逆にプレミアムは減少する方向に働き易い。右は株価とワラント価格との連動性を弱める要因となる。

また、株価が権利行使価格以下に下落した場合には、ワラントのパリティー(本質的価値)はゼロとなり、以後の株価と権利行使価格の価格差(俗にマイナスパリティーと呼ばれる。)は、全てプレミアム(ワラントの割高さ)と評価されることになるから、株価が下落し、権利行使価格より安価になればなるほど、プレミアムは増大する。

例えば、権利行使価格が五〇〇円のワラントを五〇円で売っているが、株式時価は三〇〇円しかない場合、ワラントを買って権利行使する場合の株コストは五五〇円で、株式時価三〇〇円より二五〇円も割高である。この場合のプレミアムは、株コスト五五〇円と株式時価三〇〇円の差額二五〇円を、時価三〇〇円で除し、一〇〇を掛けた数値である約八三・三三(パーセント)となり、このワラントを購入するということは、「現在株価が三〇〇円の株式を、権利行使期間内に五〇〇円で購入することを予約して、その手付金五〇円を支払う。」ことに等しく、このワラントを権利行使することは、「時価三〇〇円より八三・三三パーセント割高の五五〇円で株式を購入する。」のと同じと言えるわけである。

また、この場合には、ワラント価格の低落に伴い、ワラントコストも減少することによる割安感や、当該株価が底値に近づき、そろそろ反騰するのではないかという先高期待感が生じることから、やはりプレミアムは大きくなる。株価が権利行使価格を大きく下回り、それだけ割高になっているワラントでも、通常ワラント価格がゼロになることはない(これを称してワラントの下値抵抗線という。)と言われるのには、プレミアムが持つ右性質がある。

(2) プレミアムと時間の関係

ワラントは期限付き商品であり、権利行使期限を過ぎれば新株引受権は失効する。したがって、プレミアムの形成要因となる株価先高期待感も、あくまでも権利行使期間内での上昇期待に限られる。ワラントの権利行使期間が少なくなればなるほど、その間に株価が上昇する可能性も少なくなるから、プレミアムは減少する。

(3) その他のプレミアム変動要因

プレミアムは、前記(1)(2)の要素以外にも、それだけでは説明しがたい、原因不明の理由によって容易に変動することがあり、その要因を分析解明し、予測することは極めて困難である。

何らかの事情でワラント価格が上昇した場合には、ワラント価格の上昇自体が、株価の上昇期待とは離れた、ワラント独自の更なる価格上昇期待を引き起こし、加速度的なプレミアム上昇につながることも考えられるし、その逆もまたありうる。

また、ワラント市場は、株式市場に比べてはるかに規模が小さく、その分、特定銘柄の局所的な人気の高低が容易にワラント価格に反映され易い。したがって、例えば、一部の機関投資家による買い占めや、証券会社による特定銘柄の組織的推奨販売がある場合には、株価より容易にワラント価格、すなわちプレミアムの上昇を招き易いと考えられるし、その逆もまたありうる。

ワラントのプレミアム増減における右不確定要因は、株価以上のハイリターン方向に働くこともあるけれども、必ずしも株価変動とは関係なく、ときには株価と反対方向にも働き得るものであって、株価以上にワラント価格を乱高下させ、ワラント価格の変動幅を大きくする理由の一つと考えられる。

(五) ワラント価格と株価連動性、投資効率性

ワラント価格は、その本質的価値(パリティー)と評価される部分(株式時価が権利行使価格を上回っている場合における、株価と権利行使価格との差額金額)と、プレミアムと評価される部分(右差額金額を越えるワラント価格)とに分けられる。

そのうち、株価との直接的連動性があるのは、パリティーと評価される部分のみである。プレミアムは、株価変動と同方向に動く要素もある一方で、全く反対方向に動く要素もあるし、株価とは無関係に変動する要素もある。

実際にも、総体的にワラント価格は、株価変動に相似する形で動く傾向があるとは言えるけれども、そこには多分の例外があって、ときに株価と反対の値動きをすることもままある。

また、株価が一定額変動した場合に、より高率の価格変動が生じる(したがって、投資効率が高い。)という理論的裏付けが見られるのも、ワラント価格のうちパリティー部分のみである。株価とプレミアムの間には、このような関係がないばかりか、プレミアムは、株価動向とは逆方向に変動する可能性を常に有している。

したがって、ワラント価格において、パリティー部分が少なく、プレミアム部分が多ければ多いほど、当該ワラントは、株価との連動性も投資効率も低くなりがちとなる。

特に、株価が権利行使価格を下回るマイナスパリティーワラントについては、ワラント価格が全てプレミアムと評価されるだけでなく、権利行使価格と株価との差額相当部分も、プレミアムとして評価されることになる(例えば、株式時価が三〇〇円しかないときに、権利行使価格五〇〇円、ワラント価格五〇円のワラントのプレミアムは約八三・三三〔パーセント〕であり、これを具体的な金額で示すならば、ワラント価格五〇円はもちろん、権利行使価格と株式時価との価格差相当分二〇〇円の合計二五〇円分が、プレミアムにあたる具体的な金額である。)から、株価連動性、投資効率性が低くなる傾向が強い。

さらには、株価が権利行使価格を大きく下回り(マイナスパリティーの度合いが高い。)、ワラント価格にして一〇ポイントを切るような低価格ワラントになってくると、かなり高率のプレミアムが付くため、その後思惑通りに株価が上昇しても、右上昇はパリティーのマイナス幅を縮小させる一方で、過大になりすぎたプレミアムの低落を招くだけのものとなり、ワラント価格の上昇にはつながらないことが多い。

(六) ワラントの価格表示とその公表

ワラントの価格は、ワラント債の券面額を一〇〇ポイントとし、これに対する百分率(パーセンテイジ)で表示されている。

外貨建ワラントの価格については、平成元年五月一日から、日本証券業協会が、業者間市場で取引されるワラントのうちの一部(平成元年五月一日以降は四二銘柄、同年八月以降は六〇銘柄、同年一二月以降は八〇銘柄、平成二年三月以降は一〇〇銘柄、同年七月以降は一五四銘柄)について、それぞれ、その売値(オファー)と買値(ビット)の各気配値をポイントで発表するようになり、同時に各気配値の平均値が日本経済新聞に掲載されるようになった。

但し、平成二年七月以降、日経新聞に掲載された銘柄数は一〇〇銘柄に限定されていたし、後には、売値と買値の中間である中値の気配値のみの発表となった。

2  ワラントの危険性

前記1のワラントの商品構造からして、ワラントには、株式や転換社債と異なる、次のような独自の危険性ないし特殊性がある。

(一) 権利行使期限(存続期限)があることによる危険

ワラントの投下資本回収方法は、新株引受権の行使かワラントの転売の二通りであるが、右手段のいずれを講ずる場合でも、権利行使期限という時的限界があり、これを過ぎるとワラントは無価値になる。

権利行使期限が到来する以前でも、期限が近づくにつれプレミアムが減少することから、ワラント価格も低落する。

特に、日本証券業協会の平成二年七月一八日付け理事会決議により、権利行使期限まで二年を切ったワラントについては、値付けを行わないことが決められており、通常は極端に流通性が低下することから、売却自体が困難となる可能性がある。

(二) 価格変動が大きいことによる危険

ワラントは、パリティーの変動率が株価変動率より高いうえに、市場規模が株式より小さいため、局所的な人気の騰落が価格に反映され易く、株価に比べて価格変動幅が大きい。したがって、一般的には、株価上昇局面では株価以上の高収益をあげる可能性があるが、株価が下落局面になったときのワラント価格の下落率も株価より大きい。特に、株価が権利行使価格を下回るマイナスパリティーワラントは、権利行使期限が近づくにつれ、権利行使期限前でも、その損失額が投資資金のほぼ全額に及ぶ可能性がある。

(三) ワラント損益分岐点の見極めの困難性による危険

ワラントの購入は、プレミアム相当分、時価より割高に株式を購入する予約をするに等しいもので、株価が権利行使期間内に株コスト以上に上昇するか否かがワラントの損益分岐点であるから、これを予測・判断することが、ワラント購入の際の重要な指標となる。すなわち、単純に株価の上下動を予測するだけでなく、一定期間(権利行使期間)内における、一定額(株コスト)以上の株価上昇という、株価の値上がり時期と幅を予測する必要があり、その判断は非常に複雑困難である。

なお、一般に潤沢な資金を用意しているわけではない個人投資家は、多額の権利行使代金の追加支払を必要とするワラントの権利行使はあまり行わず、専らワラントのまま転売することによって投下資本の回収を図るのが通常であるが、転売による投下資本回収を予定してワラントを購入する場合でも、その投資判断に際し、権利行使を前提とする損益分岐点を考慮しなくてよいというものではない。ワラントの本質的な価値は、あくまでも、「権利行使による時価より安価な株式取得」という点にあるのだし、ワラントを最終的に保有する者(権利行使期限直前の保有者)は、権利行使によってしか投下資本の回収を図れない(すなわち、希望する買受人が現れない場合の究極的な投下資本回収方法は、権利行使しかない。)からである。にもかかわらず、権利行使の場合の損益分岐点を何ら考慮することなく、ただ漠然と、市場で人気が出て、ワラントが値上りするのではないかなどという期待を抱くことは、到底合理的な考え方ということはできない。

将来的なワラント転売を希望するにあたり、自己の買値より高額(少なくとも同額以上)で転売できる(すなわち、同額以上で買い取ってくれる相手が必ず現れる)ということに、合理的期待を持ち得るためには、ワラント購入の段階から、権利行使を前提としたワラントの損益分岐点を把握し、これを参考に購入の是非を決定することが必要と言える。

(四) 高プレミアムワラントにおけるハイリターン性の低下等

一般に、プレミアムが高いワラントは、株価上昇局面におけるワラント価格の連動性が低くなり、ワラントの利点である投資効率の高さ(ハイリターン性)を得ることが困難となる。

特に、株価が権利行使価格をかなり下回っている(マイナスパリティーの度合が大きい)、価格にして一〇ポイントを切るような低価格ワラントの場合は、プレミアムが高くなって投資効率が悪くなる一方で、権利行使による投下資本回収を行う機会に恵まれない可能性が高く、プレミアムが低落すれば容易に資金全額を損失することにつながりかねない。

(五) ワラントの時価評価額把握の困難性

ワラント価格は、額面に対するパーセンテイジたる「ポイント」単位で表示されるため、日本円に換算した具体的現在価格を算出するには、一定の計算(ワラント価格にワラント債の額面を乗じたものを一〇〇で除する。)を経なければならず(外貨建ワラントの場合には、更にこれに現在の為替レートを乗じる。)、時価金額の把握が困難である。したがって、ポイントだけを知っていても、ワラント債の額面が分からなければ、ワラントの時価を算出することはできず、ひいては、一ポイント上がることによっていくら差益が生ずるかも、算出できないことになる。

顧客が、証券会社担当者に問い合わせる以外にワラント時価を把握するためには、株取引の専門紙以外では、日本経済新聞紙上に発表される銘柄の気配値を見るしかなく、その銘柄数は限られている。しかも、発表方法が売値と買値の中値のみとなって後は、気配値の正しい認識のためには、売値と買値の価格差(通常一・五ポイント以内)に関する知識も必要となる。

(六) ワラントが普通の個人投資家に未知であったことによる危険

ワラント債から分離した国内(円建)ワラントが発行されるようになったのは、昭和六〇年一一月以降であり、海外で発行された外貨建ワラントの国内取引が行われるようになったのは、昭和六一年一月以降であって、証券会社が一般大衆の個人投資家との間で、ワラントの売買取引を大々的に行うようになったのは、平成元年初めころ以降であった。

したがって、普通の個人投資家にとって、平成元年初めころまでは、ワラントという金融商品は未知の投資対象であった。個人投資家のごく一部の者が、ワラントという投資対象の存在を初めて知ったのは、平成元年初め以降である。

ところが、平成元年の株価は、一月から一二月にかけて一本調子で上昇を続けた。東証平均株価(日経二二五種)は、平成元年一月五日の三万〇一八三円から、平成元年一二月二九日の三万八九一五円へと、一年間に三割弱も暴騰した。そのため、平成元年初めから普通の個人投資家に売り出されたワラントも、平成元年中は暴騰を続け、個人投資家の間では、ワラントの危険性については、無防備の状態であった。

このように、平成元年当時は、普通の個人投資家にとって、ワラントは未知の商品であり、その危険性については、殆ど知られていなかったのであるから、平成元年に売り出されたワラントについては、証券会社の担当者が顧客に対し、ワラントの商品構造、危険性について、きちんと説明していることが、とりわけ重要となる。

二  本件取引の経緯について

1  原告X2の経歴、原告らの資産状況等

証拠(乙三、五、九、証人C、原告X2本人)、及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 原告X2は、大正一三年○月○日生まれの女性であり、尋常高等小学校を卒業後、家業の農家を手伝い、昭和二二年に原告X1と結婚した後は、主婦として三人の子供を育てる傍ら、時折、電話番や掃除をするなどして、原告X1、原告X3が経営する有限会社新地商店の手伝いをしてきた。

(二) 原告X2は、昭和四九年ころ以降、被告の前身である野村證券投資信託販売株式会社に開設した原告ら名義の取引口座において、証券等取引を開始したほか、その後家族名義の取引口座八口座を開設し、以後十数年間にわたり、右合計一一の取引口座において、証券等取引にあたってきた。

また、原告X2は、取引高は比較的少ないながらも、被告以外の四証券会社においても、証券等取引を行ってきた。

(三) 平成元年当時、原告らが被告において運用していた証券等の預託資産総額は、二億数千万円から三億円近くに達し、その他の家族名義での資産額もそれぞれ一〇〇〇万円を越える程度保有しており、原告らは、被告松山支店が取り扱っている個人客の中では、最高レベルの高額取引先であった。

右金融資産の原資となったのは、いずれも有限会社新地商店から原告らに支払われる給与等で、漠然と老後の資金とすべく蓄財していたものであった。

また、原告らは、その他の資産として、少なくとも賃貸マンション二棟(うち一棟は自宅兼用)とその敷地を所有していた。

2  原告らの昭和四九年から平成元年までの取引状況等

証拠(甲、乙三、五、九、証人C〔一部〕、原告X2〔一部〕)、及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 原告X2は、昭和四九年ころから昭和六三年四月までの間、被告との間で、現物株式、投資信託、転換社債、外国株式及び外貨建投資信託等、数々の証券等取引を行ってきた。その一回あたりの取引規模は数百万円単位のことが多く、時には一千万円を越える株取引を行ったこともあり、右取引の結果、相当の損失を生じたこともあった。

(二) 原告X2は、定期購読していた読売新聞の株式欄やテレビ等で、自己所有の株式時価やダウ平均株価をチェックしたり、時折美容院等で週刊誌に目を通す際には株式情報を読むなどし、時には自分から特定の銘柄の株式について被告担当者に相談し、意見を求めたこともあったが、主には被告担当者の勧めに応じて証券等取引を続けてきた。その勧誘を断ることもあったが、その多くは、損切りしてまで買換えはしないとか、手持資金がない等の理由によるものであった。但し、取引後に、被告から送付されてくる取引報告書には、目を通してその内容を確認するようにしており、自己の取引内容には、相応の注意と関心を払っていた。

(三) ところが、原告X2は、過去に原告X1において証券会社担当者から株の信用取引を勧められて損をしたという苦い経験を持ち、さらに、被告担当者に無断売買されたという認識を持ったことから、被告との取引を打ち切り、資金を引き上げたいという強い意向を持つに至り、昭和六二年中ころ以降は、被告との新規取引を殆ど中止し、昭和六三年五月ころには、被告松山支店のE支店長(B支店長の前任者)に対し、資金引き上げの意向があることを告げた。

(四) すると、E支店長は、昭和六三年七月ころ、Cと共に原告ら宅を訪問して、担当者をCに交替させること、Cは株取引には自信があること等を説明して、強引な勧誘はしないし、危険なものは勧めないと約束して、被告との取引の継続を要望した。そこで、原告X2は、E支店長やCに対し、危険なものは勧めないでほしい、強引な勧誘はしないでほしい、といった要望を伝えた上で、被告との取引再開に応じた。

(五) Cは、昭和六三年七月以降、原告X2に頻繁に電話連絡を取り、月に二回位は自宅を訪問して、一、二時間にわたり種々の株式、転換社債等の購入を勧めた。原告X2は、これに応じて頻繁に証券等取引を行い、比較的順調な成果を上げていた。

3  本件取引開始時点での説明状況等

(一) 認定事実

証拠(甲一〇一〔一部〕、甲一〇二〔一部〕、乙三、五、九、一二ないし一五、四八、一四八ないし一五一、証人C、原告X2〔一部〕)、及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 被告本社の指導により、被告松山支店でも、平成元年七月から、一般個人顧客に、ワラント取引を勧誘することになった。Cも、そのころ、Bと相談のうえ、原告らにワラントの購入を勧めることとした。

そこで、Cは、平成元年七月一八日、原告ら方を訪問し、少なくとも四〇分以上は滞在して、原告X2に対し、ワラント購入を勧誘した。

(2) 右勧誘に際して、Cは原告X2に対し、被告作成の「ワラント取引のあらまし」と題したパンフレット(乙一二)を交付して、これに基づき、ワラントの特質について、次の事項を説明した。

① ワラントとは新株引受権証券であり、権利行使期限内に、権利行使価格で、発行会社の新株を購入する権利を表章するものであること。

② ワラントは、もともとワラント債として社債と一体だったものを、新株引受権だけが分離されて売られているものであること。

③ ワラントは、転換社債と同じように、株価が上がればワラント価格も値上がりし、株価が下がればワラント価格も値下がりするが、その変動幅は、株式や転換社債より大きいこと(ハイリスク・ハイリターンであること)。

なお、右説明に際しては、パンフレット(乙一二)上に記載された図(乙一二の四頁掲載の「ワラントの理論価格と市場価格の関係」と題した図)や、株価が上昇した場合にワラント価格がどのように上昇するかの具体的想定例を、自ら記載したメモを見せながら、ワラントの価格には、株式時価と権利行使価格の差額にあたる理論的価値部分があって、右価値部分は株価上昇とともに上昇し、その上昇率は株価の上昇率より大きいこと、また、ワラント価格には、右理論的価値部分のほかに、将来的な株式の値上がり期待値を示す価格部分が付加されることを説明した。

さらに加えて、同じ想定例に基づき、ワラント価格が上昇した場合には、株式の値上がり期待値を示す価格部分は逆にだんだん小さくなる趣旨のことを説明しようと試みたが、その解説方法・内容があまりにも粗雑で舌足らずなものであったため、通常の注意力を備えた投資家にとっても、到底理解できない難解なものであった。

④ ワラントは期限付きの商品であり、期限が過ぎるまでに売却ないし権利行使しなければ権利はなくなること。

⑤ ワラント価格は権利行使期間との相関関係もあり、右期間が長いほど有利であり、短くなるとゼロに近づくこと。

⑥ 外貨建で発行されているワラントについては、為替変動の影響を受けること。

⑦ ワラント価格はポイントで表示されることと、ポイント価格の日本円への換算方法

(3) Cが交付した被告作成のパンフレット(乙一二)には、「ワラントは、株式を売買するよりも少額の資金を投下するだけで、株式を売買した場合と同様の投資効果を上げることも可能ですが、その反面、値下がりも激しく、場合によっては投資金額の全額を失うこともあります。」「ワラントは期限商品であり、権利行使期間が終了すれば、その価値を失うという特質を持っています。」「外貨建てワラントに投資する場合は、為替の影響を考慮に入れる必要があります。ワラントの価格が一定だとしても、購入時より為替が円高になれば為替差損が、逆に円安になれば為替差益が生じることになります。」と記載され、「株式とワラントの価格変動率比較」と題して、株価とワラントの理論価格(パリティー)との変動例(株価が一五〇〇円の時にワラント理論価格が五〇円であれば、株価が二〇〇〇円に上昇した時には(上昇率三三パーセント)、ワラント理論価格は一〇〇円に(上昇率一〇〇パーセント)、株価が一〇〇〇円に下落した時には(下落率三三パーセント)、ワラント理論価格は零円に(下落率一〇〇パーセント)、それぞれ変動する具体例)が掲載されていた。

(4) さらに、Cは、前同日(平成元年七月一八日)、原告X2に対し、日本証券業協会作成の「外国新株引受権証券(外貨建ワラント)取引説明書」(乙一三)も交付して、目を通しておくよう伝えた。

右取引説明書(乙一三)でも、冒頭に「ワラントのリスクについて」と題して、権利行使期間の終了により無価値となること、ワラント価格は理論上株価に連動するが、変動率は株式より大きくなる傾向のあること、外貨建てワラントでは為替変動の影響を受けること、という危険につき、アンダーラインを付して強調し、投資に当たっては十分注意する必要がある旨、警告する記載がなされていた。

(5) その一方で、Cは、ワラントは、少額の投資で高額の収益を上げることが可能な投資効率の良い商品で、人気も高いこと、当時の株式相場は一本調子の上昇傾向にあったが、Cとしては今後ともその調子が続くと予想していること、したがって、当時の日本経済の状態からすれば、ワラント取引の危険性をそれほど考える必要はなく、むしろ、株式よりもワラントの方が値上がり期待が持てること等、ワラントの有利な点について説明したうえ、熱心に購入を勧めた。

(6) 原告X2は、本件取引以前にワラントの意義、内容につき聞いたことがなかったうえ、右Cの商品説明を聞いても、ワラントという証券がどのような内容の証券で、いかなる理由によって価格変動するもので、具体的にいかなる危険があるのかという点について理解できず、かえって、Cが転換社債の例を引き合いに出したことから、単純に転換社債類似の株式派生商品であって、その価格は株価に連動性があり、元本保証されたものではないので、多少の危険はあるかもしれないが、その値下がり幅には一定の限界があるのだろう、と思い込むに至った。

そして、原告X2は、ワラントの商品性について、自分自身に理解不十分な点があることを認識しつつも、特に、Cに対する質問や右説明以上の詳しい解説の要求をしないまま、ワラントを購入することを承諾した。

(7) そこで、Cは、ワラント取引は多少のリスクを伴うことから、預かり資産の三分の一程度を投入することにしようと話し、原告X2は、原告X1名義と原告X2名義の口座から一定額の金融資産を処分して、ワラントを購入することとして、「私は、……ワラント取引に関する説明書の内容を確認し、私の判断と責任においてワラント取引を行います。」と記載された「ワラント取引に関する確認書」(乙一四、一五)に、原告X1と原告X2名義の署名捺印をして、Cに交付した。

(8) 以上の経過を経て、Cは、平成元年七月一九日、原告X2に電話連絡し、大正海上火災、日野自動車工業の各ワラントについて、その権利行使期間、権利行使価格等を告げたうえで購入を勧め、原告X2は、その保有する株式や投資信託等を売却した代金で、同日、別表(一)1記載のとおり、原告X1口座で大正海上火災ワラントを、翌二〇日、別表(二)1記載のとおり、原告X2口座で日野自動車工業ワラントを、それぞれ購入した。

なお、本件取引において売買されたワラントは、別表(二)13の大阪ガスワラントを除き、全て外貨建ワラントであった。また、本件取引においては、原告らに対し、ワラント原券は全て交付されず、代わりにその預り証が交付された。

(9) 原告X2は、右各取引の後、被告から取引報告書が送付された際に、ワラントは期限までに権利行使しなかった場合には無効になる、等の注意書が記載された「ワラント取引のご案内」(乙四八)が添付されていたことから、ワラントは期限が過ぎれば紙切れになってしまうのかと不安になり、平成元年七月二四日ころ、原告ら宅にCを呼び出し、その不安について問い質した。

これに対して、Cは、「確かに、ワラントは行使期限が切れれば紙切れになるが、行使期限が三、四年あるので、その間に売却すれば、そんなことにはならないし、仮に、紙切れになるようなことがあれば、発行会社はもちろん、それを紹介した証券会社も信用問題となって、大変なことになる。」、等と述べたので、原告X2も、ワラントが無価値になることはないものと思い込み、引き続きワラントを購入していくこととした。

(二) 原告X2供述の信憑性について

以上の認定事実に反し、原告X2は、本件取引を始めるにあたり、Cからは、「ワラントとは、転換社債の株の方である。」という説明以外何も聞いていないし、乙一二・一三のパンフレットも受領していない、原告X2が、最初のワラント購入後に、Cに対し、「期限までに権利行使しなければ無効になる。」との意味を問い質した際にも、Cからは、「絶対紙切れにはならない。転換社債と同じようなものだから心配ない。株は暴落しても、ワラントは社債と同じようなもので、一定の歯止めがあるから心配ない。」と言われた旨、供述する。

しかしながら、証拠(乙一四九ないし一五一)及び弁論の全趣旨によれば、Cは、同じく同人が担当していた被告松山支店の顧客D(分離前の相原告)に対しても、同時期にワラント購入を勧誘しているが、同人に対しては、ワラントが新株引受権であって、その価格は株価と連動するが、それより値動きが激しいこと、ワラントには権利行使期限があって、それを過ぎると無価値になること、外貨建てワラントであること、株とワラントの価格上昇想定例の提示等の説明を行い、被告作成のパンフレット(乙一二)を交付したこと、また、株価が下がったらどうなるかという質問に対しては、落ちることがないとは言えないし、行使期限を過ぎたらゼロになるけれども、今の日本経済からすれば、安心して購入できる旨回答したことを、右D自身が認めている。

しかも、前記証拠によると、Dは歯科医であり、Cは、Dに対しては、歯科診療時間中の僅か数分間を利用して、ワラントについての前記説明をしているのであるが、原告X2に対しては、少なくとも四〇分以上の時間を割いて、ワラントについて説明しているのである。

とすれば、Cは、同時期の他の顧客である原告X2に対しても、少なくとも、Dに対して行ったと同程度のワラントの説明をし、パンフレットも交付したと認めるのが合理的であり、Cが原告X2に対し、「ワラントは絶対紙切れにはならない。」とか、「一定の歯止めがある。」等と説明したとは考え難く、ワラントの説明内容に関するCの証言は信用できる。

加えて、Cは、松山からわざわざ八幡浜市にある原告ら宅まで出かけ、少なくとも四〇分以上は滞在して、ワラントの勧誘を行っているのであり、家庭の主婦にすぎない原告X2にワラントの説明をするにあたり、「転換社債の株の方」という説明以外何もしなかったとは、到底考えられないし、一方の原告X2も、右説明では何のことだか分からなかったというのであるから、「転換社債の株の方」という商品につき、それ以上の説明を全く求めなかったというのも、およそ考えられないことである。

さらに、原告X2が、何のパンフレットも受領せず、何の説明も受けていないのに、「私は、……ワラント取引に関する説明書の内容を確認し、私の判断と責任においてワラント取引を行う。」と記載された「ワラント取引に関する確認書」(乙一四、一五)に、署名捺印したというのも不合理である。

原告X2は、その本人尋問の中で、「ワラント取引に関する確認書」(乙一四、一五)、「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(乙一六)、「ワラントお預かり明細のお知らせ」(乙五〇、五二)に自らが署名捺印した経緯や、平成三年二月初旬以降もワラント売買を継続した事情等、自分に不利益な事項については、記憶にない等と述べるのみで、何ら合理的説明をしない一方で、昭和六三年四月以前の取引で生じたという損失の内容は、実際より過大に(しかもかなり鮮明なものとして詳細に)記憶していたり、現実には、本件取引後も被告に相応の有価証券類を保護預けにしていたにもかかわらず、本件取引の結果として、殆どの資産を失わされたと思い込むなど、全体的に、自分が被害を被ったという点だけは、誇張的ないし強調的に主張する傾向があると認められる。

とすれば、原告X2が故意に虚偽の供述をしているとまでは思わないけれども、原告X2は、結果的に多大な損失を受けたという被害者意識に陥るあまり、自分に都合の悪い点については思い出せないのではないか、との疑念を払拭することができず、原告X2の供述は、全般的に信用することができない。

4  本件前期(平成元年七月から平成二年二月まで)取引の状況

証拠(乙三、五、九、証人C、原告X2)、及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 原告X2は、別表(一)1、(二)1の各ワラントに次いで、平成元年七月二四日から八月初旬までに、その保有株式、投資信託等を売却した資金で、別表(一)2、(二)2、3記載のとおり、原告X1名義、原告X2名義で、ユニチカ、三菱重工業、伊藤忠商事の各ワラントを順次購入した。

なお、Cは、以後、原告X2にワラントを勧誘するにあたっては、その権利行使価格、権利行使期間及びポイント表示によるワラント価格を告知するようにしていたが、それ以外の詳しい説明は特に行わず、また、取引途中からは、権利行使期間も告げないまま勧誘したこともあったが、原告X2は、いずれの取引の場合でも、Cに対し、特に質問をしたり、詳しい説明を求めたりすることなく、Cが勧めるままにワラントを購入していた。

(二) 右各ワラントは比較的短期間で値上がりしたので、原告X2はその結果に満足し、Cに勧められるままに、早いものは数日中、遅いものでも一、二か月以内の短期間でワラントを売却して、そこから得た売却益のほか、平成元年九月末ころには、手持ち株式を売却して得た新たな資金等を追加投入して、次々と別のワラントを購入していった。

このようにして、原告X2は、平成元年一二月八日までの間に、別表(一)1の大正海上火災ワラントを、同表3の日野自動車工業ワラントを経て、同表4のベスト電器ワラントに、別表(一)2のユニチカワラントを、同表7のゼンチクワラントに、別表(二)1の日野自動車工業ワラントの半分を、同表5のベスト電器ワラントに、残る半分を、同表4の全日本空輸、同表6の住友不動産、同表8の大和ハウス工業の各ワラントを経て、同表12の徳山曹達ワラントに、別表(二)2の三菱重工業ワラントを、同表10の三菱油化ワラントに、別表(二)3の伊藤忠商事ワラントを、同表9の三井物産ワラントを経て、同表11の三菱電機ワラントに、それぞれ買い換えた。

(三) また、保有ワラントが比較的順調な収益をあげていたことから、原告X2は、Cに勧められるままに、平成元年一〇月初旬には、ワラントに対する投資額を更に増大することとした。後に権利行使期限を徒過して合計約四二〇〇万円の損失を出すに至った別表(一)4、(二)5の各ベスト電器ワラントの価格も、平成元年中はほとんど値下がりしておらず、むしろ、平成元年一〇月初旬ころは、一時的に多少の値上がりを見せたほどであった。

そこで、さらに、原告X2は、手持ち株式、転換社債を売却した資金で、別表(一)5、(二)7記載のとおり、平成元年一〇月三日にトーメン、同月一一日リョーサンの各ワラントを購入し、これらも数日から数か月の間に、取得した売却益を上乗せして買換えを行い、平成二年二月六日までの間に、別表(一)5のトーメンワラントを、同表6の日本油脂ワラントを経て、同表7のゼンチクワラントに、別表(二)7のリョーサンワラントを、同表14の日本通運ワラントを経て、同表15の神戸製鋼所ワラントに、それぞれ買い換えた。また、別表(二)13記載のとおり、平成元年一二月一一日には、国内発行(円建)ワラントである大阪ガスワラントを購入した。

5  本件中期(平成二年七月、八月)取引の状況

(一) 認定事実

証拠(乙三、五、九、六六、一〇五ないし一一二、一一四、証人C〔一部〕、証人B〔一部〕、原告X2〔一部〕)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) ところが、平成二年に入ると、平成元年末までは一本調子で上昇していた株式相場が一転して暴落し、平成二年四月ころまでは概ね下落し続け、原告ら保有ワラントにも、かなりの評価損が発生した。

Cは、原告X2に対し、「ワラントでも迷惑をかけています。」等と話して、その保有ワラントに評価損が出ていることは告げたが、具体的な損失額や下落率を告げることはなかった。

(2) 被告松山支店では、顧客の保有資産の多くが評価損を生じていたことから、支店としても積極的な対応策を考えることになり、原告ら方には、平成二年四月一〇日、Bが自ら訪問して原告X2に面会し、当時の相場状況を説明したうえ、原告らの金融商品にも評価損が出ていること、またその評価損を挽回するために、ワラントを含む変動商品を追加購入し、積極的にハイリターンの獲得を目指すという方向性を提示した。但し、Bは、その際、原告らに生じている評価損の具体的金額までは告げなかった。

原告X2は、Bが訪問した際、挽回策の一つとして紹介された新規上場予定のマルキョウ株式を購入したところ、かなりの評価益を得ることができた。

(3) 被告は、平成二年五月一六日、原告X2が保有していたワラントの預り証(乙一〇五ないし一〇八)を回収して、新しい預り証(乙一〇九ないし一一二)と差し替えた。

従前のワラント預り証(乙一〇五ないし一〇八)は、公社債用ないし外国公社債用の預り証を流用していたために、償還日ないしは信託期間満了日の欄に、権利行使期限の記載がされる(但し、別途権利行使期限の表示は付加されていた。)などしていたが、新しい預り証(乙一〇九ないし一一二)は、ワラント専用の預り書となって、「償還日」等の表示がなくなったほか、その裏面に注意事項として、ワラントは期限到来時に価値を失う期限付き商品であること、ワラント価格は理論上株価に連動するが、株式に比べ大きく変動すること、外国ワラントでは外国為替の影響も考慮する必要があることが、それぞれ記載されていた。

但し、従前の預り証には記載されていたワラント債の額面の記載が削除され、代わりにワラント数量のみが記載されるようになった。

(4) 平成二年七月ころ、Cは、原告X2に対し、同年四月から七月中旬にかけて株価が少し持ち直してきたことや、今後の長期的な相場見通しとして、やはり株価は上昇する、との予測を有していること等を説明し、投資効率の高いワラント投資額を一層拡大することによって、それまでの評価額を挽回しようと提案して、原告X2に再びワラントの購入を勧めた。

その際、Cは原告X2に対し、従前ワラント取引をしていた原告X1や原告X2の口座では、動かせる資金額が少ないので、新たに原告X3名義の口座でもワラント取引を行うよう促した。

(5) 原告X2は、前記マルキョウ株式で評価益が上がっていたことなどから、Cの投資判断を信頼し、同人が勧めるままにワラントを購入することとし、平成二年七月二七日、保有株式を売却した資金で、原告X1口座と原告X3口座において、別表(一)8、(三)1のトーメンワラントを購入した。

その際、原告X2は、「私は、貴社から受領した国内新株引受権証券取引説明書及び外国新株引受権証券取引説明書の内容を確認し、私の判断と責任において国内新株引受権証券取引、外国新株引受権証券取引を行います。」との文言が記載された、「国内新株引受権証券及び外国新株引受権証券の取引に関する確認書」(乙一六)に、原告X3名義の署名捺印をして、Cに交付した。

(6) その直後、トーメン株式が少し値上がりしたのに、トーメンワラントは値下がりしたが、Cは、いわゆるナンピンという相場手法(相場が反騰することを前提に、むしろ安値になったところで証券等を購入することにより、先に同じ証券等を高値で買い付けたことによる投資コストを平準化すること)に則って、更にワラントを購入することを勧めた。

そこで、原告X2は、平成二年八月一日、前述のマルキョウ株式を売却した資金で、原告X3口座において、別表(三)2のトーメンワラントを追加購入した。

(二) C証言の信憑性について

Cは、原告ら保有ワラントの価額が、評価損により、平成二年三月ないし四月ころには三分の二程度になっていることを、原告X2に告げた旨供述するが、同供述は、以下述べる理由により、信用することはできない。

(1) Cは、証人尋問の中で、実際に評価損額を伝えた時の具体的状況、すなわち、どういう話の中で、多額の評価損の話をすることになったのか、原告X2からの質問があったのか、自ら進んで話したのか等につき、全く証言していないのであり、本当に原告らの損失額について、三分の二という表現を用いて伝えたのか、疑問がある。

(2) Cは、「新地さん自体が損をするということ、損切りをするということを好んでなかった。」と証言しており(第一二回証人調書三丁)、Cは、内心では、ワラントの評価損額を原告X2に知られたくない気持ちを有していたと推測される。多額の損失額を告げれば、顧客が喜ばないのは明らかだから、Cとしても、できれば言いたくないと思うのも不思議はない。

そして、Cも、平成二年三、四月の時点では、株式相場は近いうちに回復すると考えていた(証人Cの証言)のであるから、Cは、右時点において、原告X2に対し、原告ら保有ワラントの価額が、購入価額の三分の二にまで下落していることなどとは、伝えていないのではないか。

(3) 被告としても、被告代理人が主張するとおり、一旦購入した証券等の評価損額を顧客に伝える法的義務はないと考えているのであるから、平成二年三、四月の時点では、従業員に対しても、わざわざ評価損額を顧客に連絡するような指導はしていなかったと思われる。現に、Bも、証人尋問の中で、平成二年四月一〇日、専ら評価損の挽回策を相談するため、原告ら宅を訪問したのに、原告X2に具体的な評価損額は告知しなかったことを自認している。

したがって、Cも、平成二年三、四月の時点では、原告X2に対し、原告らの保有ワラントの価額が、購入価額の三分の二まで下落していることなど、伝えていなかったものと思われる。

(三) B証言の信憑性について

Bは、平成二年四月一〇日、原告ら宅を訪問した際に、原告ら保有ワラント価格が半分程度に下がっていると説明した旨、反対尋問の中で証言している。

しかし、右事実は、Bが証人尋問前に作成した陳述書(乙一一四、「原告らの保有ワラントも価格が下落している話をしています。」とのみ記載されている。)や、被告代理人の主尋問では表れていないことがらであって、右陳述書やBの証言を全体として評価すれば、右訪問の際に、「半分程度まで下落している。」と説明したのは、あくまでも株式相場全体の状況に関することであって、Bが、平成二年四月一〇日時点において、原告ら保有ワラントの評価損の割合を告知したと認めることはできない。

6  後期(平成二年一一月から平成三年四月まで)取引の状況

(一) 認定事実

証拠(甲一〇一及び一〇二〔一部〕、一〇三の1ないし3、乙三、五、九、四九、ないし五二、六六ないし一〇二、一一四、証人C〔一部〕、証人B〔一部〕、原告X2〔一部〕)、及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 株式相場は、平成二年八月に勃発した湾岸戦争を契機に再び暴落し、以来なかなか回復の気配を見せず、原告ら保有ワラントは、新たに買いつけたものも含めて、かなりの評価損を出し、平成二年一一月ころには、その全体的価額は買付価額の三分の一程度にまで下落した。

そこで、被告本社は、ワラントを保有する顧客に全面的な損失が生じていることから、一定額以上の損失を出したワラント保有顧客に対し、各支店長が直接訪問するなどして、保有ワラントの現状を説明すると共に、ワラントの特質を顧客が理解しているかを確認する作業を行うよう指示した。

(2) Bも、被告松山支店長として、平成二年一一月九日、原告ら宅を訪問して、原告X2に対し、原告ら保有ワラントのうち、原告X1と原告X2口座で買い付けた各ワラントの時価評価額を告げると共に、右各ワラントの買付単価(ポイント)、気配値(ポイント)、時価評価額及び権利行使満了日がそれぞれ記載された、「ワラントお預かり明細のお知らせ」(乙五〇、五二)を交付し、原告X1と原告X2口座で買い付けたワラントについて、約八九〇〇万円もの評価損が発生していることを知らせた。

その一方、Bは、原告X2の質問に応じて、今後の株価動向予測につき、平成二年は、初頭から既に二回大きく下落しており、二度目の下落は湾岸戦争の影響によるものなので、湾岸戦争が落ち着けば、株価も反騰が期待できるという予測を述べ、原告X2に対し、当時のワラント価格は全般的に下落しているものの、ワラントの高い投資効率を考えれば、逆に安値になっている今購入すれば、相場が戻ったときの高い収益が期待できること、したがって、今新たにワラントを購入することが、これまで生じた損失を積極的に回復する一方法である等と話して、ワラントの追加購入を勧めた。

原告X2は、右Bの話によって、当時保有していたワラントが莫大な評価損を生じていることを知らされたが、同時に、ワラントは投資効率が高く、相場が戻ったときにより高い収益が得られ、損失の挽回策の一つとなることを聞かされた結果、右勧誘に従うこととし、当面の間はワラントを保有して、相場の回復を待ちたいという意向を示した。

(3) 原告X2は、以後、Bが勧めるとおりに、保有する株式、投資信託等を売却した代金で、新たなワラントを購入することとし、別表(一)9、(二)16、(三)3記載のとおり、平成二年一一月一六日、原告X1、原告X2、原告X3の各口座で、三菱金属ワラントを購入した。

右ワラントは比較的短期間で値上がりしたので、原告X2は、また、Cが支店長の推奨銘柄として勧めたとおりにワラントを買い換えることとし、その間の売却益を随時上乗せして、平成二年一二月一三日までの間に、いずれも数日から一、二か月の間隔で、別表(一)9と(二)16の三菱金属ワラントを、同表(一)10と(二)17の日本鉱業及び同表(一)11と(二)18の住友金属工業ワラントに、次いで、別表(一)11の住友金属工業ワラントを同表12の日本信販ワラントに、別表(二)18の住友金属工業ワラントを同表19の宇部興産と同20の日本信販ワラントに、同表(三)3の三菱金属ワラントを、同表4、5の三菱重工業、伊藤忠商事のワラントを経て、同表6の日本酵素ワラントに、それぞれ買い換えた。

(4) その後も、株式相場は一進一退を続け、平成三年一月末の時点では、ワラント価格も暴落しており、原告らが保有していた全てのワラント(別表(一)4、7、8、10、12、同(二)5、10ないし13、15、17、19、20、同(三)1、2、6)価格が下落し、莫大な含み損を抱えていた。

被告本社では、平成三年一月末ころから、顧客に対し、三か月毎にワラントの時価評価の通知を発送することとなり、原告らに対しても、平成三年二月初旬に、原告ら保有ワラントの時価評価額は合計約金四四四〇万円に過ぎず、評価損額が合計約金一億三〇〇〇万円弱に及んでいることを示す通知書(甲一〇三の1ないし3)を送付した。

その後、原告X2は、いくらか値を戻してわずかに評価益を上げた別表(二)19の宇部興産ワラントと、同表(一)10及び(二)17の日本鉱業ワラントを売却したうえ、更に手持ちの投資信託を売却した代金を追加して、平成三年二月二二日、別表(一)13及び(二)21のオリエントコーポレーションワラントを購入した。

(5) 原告X2は、そのころ、原告X1が病気入院中で、相前後して手術を受けたりしたことで、不安定な心理状態となっていたことや、更に評価損が拡大したことで、被告に対する不満が高じて我慢できなくなり、平成三年二月から三月初旬にかけて、Cに対し、ワラントで莫大な評価損が出ていることにつき、電話で厳しい苦情を述べ、Bにも同様の苦情を述べた。さらに、原告X2は、平成三年三月一四日、Bを藤岡旅館に呼び出し、本件取引によって更に高額の評価損が出たことについて、激しく抗議した。

これに対して、Bは、今後の原告らの取引については、B自身が目配りをすると言ったところ、原告X2も、支店長が勧める取引であれば信頼できるのではないかと考え、引き続き被告との証券等取引を行うこととした。

(6) そこで、原告X2は、当時価格が上昇しているとして、Bから勧められたオリエントコーポレーションワラントの買い増しをすることとし、まず、平成三年四月三日、評価益が出ていた別表(一)12と(二)20の日本信販ワラントを売却した代金で、同表(一)14と(二)22のオリエントコーポレーションワラントを購入し、また、平成三年四月一六日、既に評価損が出ていた別表(二)10の三菱油化、(二)11の三菱電機、(二)12の徳山曹達、(二)15の神戸製鋼所、(三)2のトーメンワラントを売却した代金で、別表(二)23、(三)7のオリエントコーポレーションワラントを購入した。

しかし、株式相場は、平成三年三月中旬に一時的回復を見せたものの、その後は平成四年八月までほぼ一貫して下落を続け、原告ら保有ワラントの価格はいずれも急激に下落して、平成四年二月末には、概ね買付価格の八割五分ないし九割以上の評価損を出し、同年八月末までには、ほぼ無価値に等しい評価額となって、原告ら保有ワラントは、いずれも権利行使ないし転売されることなく、権利行使期限を徒過して紙屑と化した。

(二) 原告X2供述の信憑性について

原告X2は、平成二年一一月九日の時点で、Bから、当時の保有ワラントの時価評価額を聞いたことはないし、権利行使価格や権利行使期限の意義等について説明されたこともない、ただ、「ワラントお預かり明細のお知らせ」(乙五〇、五二)に、原告X1と原告X2名義の署名捺印をし、その写しを受け取った事実はあるけれども、右署名捺印は、ただ、Bから、原告ら宅を訪問したという証明のために必要だ、と言われて記載したものに過ぎず、その中身については目を通さなかった、等と供述する。

しかしながら、Bは、被告の全社的な指示を受け、保有ワラントで多大な損失を生じている顧客に対し、支店長として、その現状等の説明をするために、わざわざ松山から八幡浜市まで出かけているのであって、肝心のワラントの動向につき何らの説明もしないということは、いかにも不自然であるし、その際に、期限付き商品としてのワラントの特質や、権利行使方法等についての顧客の知識を確認したか否かということは、被告の内部的な文書報告事項にまでなっていたのであるから(乙四九、五一)、その説明を全くしなかったとは考え難い。

右「お知らせ」(乙五〇、五二)に署名捺印した事情に関する原告X2の説明は、それ自体極めて不自然なものであって、前記3(二)で指摘したように、原告X2には、自分に不利益な事項については、記憶に乏しい傾向があることに照らせば、右Bの訪問時に関する原告X2の供述は、信用し難いものと言わざるをえない。

7  本件取引ワラントの内容

証拠(甲一〇八、一〇九)、及び弁論の全趣旨によれば、本件取引において、原告らが購入した各ワラントの権利行使期限、行使価格、購入日の株価、ワラントコスト、株コスト、乖離率(プレミアム)の内容は、別表(四)記載のとおりであることが認められる。

三  争点1(一)(証券等取引勧誘に際して証券会社が負うべき法的義務)について

1  証券取引における自己責任原則

一般に、証券取引は、本来、利益の反面において危険や損失を伴うものであるから、証券市場に参入しようとする投資家は、自らの資力や投資判断能力、情報収集力等を勘案して、自己に適合した証券投資を自己の判断と責任において選択しなければならず(自己責任の原則)、右原則は、本件取引のようなワラント取引にも当然適用される。

そして、原告らが指摘する証券取引法や、各種通達、公正慣習規則等も、第一義的には、健全適正な証券市場を形成、発展させるという目的のために、自己責任原則に則り、自らの主体的判断によって、自由な証券取引を行いうる投資家を育成し、あるいは、かかる投資家による主体的判断を尊重した証券取引を現に行い得るような状況を作出、維持するための規律を定めた、取締法規ないしは自主的規制であると考えられる。

よって、証券会社の従業員に、これらの法規、規制等に違反した行為があったことをもって、直ちに、証券会社に、特定の投資家個人に対する不法行為(使用者責任)ないしは債務不履行責任を生ぜしめるものではない。

2  証券取引における不法行為(債務不履行)責任の意義

しかしながら、何者かが投資家の主体的かつ自由な判断を妨げるような行為を行い、その結果として選択された取引によって損失が発生した場合には、もはやその損失は投資家に負担させるべきものではない。右損失は、右妨害行為を行った者の故意又は過失によって、違法に生ぜしめられたものとして、不法行為責任(場合によっては債務不履行責任)に基づき、当該行為者が負担すると解するのが、公平妥当な考え方である。

当然ながら、証券会社の従業員も、かかる妨害行為をすることは許されない。証券会社の従業員が顧客に投資勧誘行為等を行うに際し、証券取引法や、各種通達、公正慣習規則等で禁止されている行為を行ったり、あるいは履行が義務づけられている行為を懈怠して、それが、投資家による証券取引行為の主体的かつ自由な判断を妨げるものとなった場合には、右は単なる取締法規違反を越えて、当該投資家に対する直接的な不法行為ないしは債務不履行にあたりうることとなる。

特に、証券会社の従業員が、当該証券の商品構造や危険性等について、積極的に虚偽の表示や誤解を生じさせる言辞を用いたり、断定的な判断を提供するなどした場合には、それによって投資家の主体的かつ自由な判断を阻害する可能性が高く、かかる勧誘行為自体が、投資家個人に対しても、私法上違法な行為と判断される場合が多いであろう。

3  説明義務と不法行為(債務不履行)責任

一般に、投資家が主体的かつ自由な投資判断をする前提としては、当該証券に関する知識、すなわち当該証券の構造や危険性について、十分な情報が必要であると思われる。問題となるのは、証券会社が証券等取引の勧誘を行うに際し、投資家に対し、かかる情報を提供すべき法的義務があるのか、あるとすれば、どのような場合に、いかなる範囲・程度でその義務を負うのか、という点である。

この点については、確かに、投資判断の最終責任を負うのは投資家であり、その投資判断の前提として必要と考える情報・資料等を収集するのも、また投資家自身の意思と責任で行うべきなのであって、投資家が、自己の情報収集力に照らし、投資判断に必要な情報が確保されていないと考えるなら、当該取引を行わなければよく、それもまた投資家の投資判断の一つである、という考え方もあろう。

しかしながら、ここで見過ごしてならないのは、通常証券会社の説明義務違反が問題となる事例においては、証券会社は、かかる投資家に対し、特定の証券等の購入を勧誘ないし推奨し、投資家にこれを購入してもらうことによって、手数料等の収益を上げているという事実である。一般に、個人投資家が入手できる情報は、新聞、雑誌、あるいは証券会社の担当者の説明によるものなど、限られている。よって、十分な情報なき限り証券取引は行わないという投資態度を、全投資家が厳格に貫いたら、おそらく、現在の個人投資家の相当割合の者が、証券取引を止めてしまうであろうし、そのようなことは、証券会社自身も予定していないはずである。

とすれば、逆に、証券会社は、多くの個人投資家が、当該証券等について必ずしも十分な知識・情報を得ないままに取引している実態を知悉しており、そのうえで、いわば無知な投資家に特定の証券等の購入を勧誘し、その信頼の下に取引を成立させ、自らの収益を上げているわけである。

その一方で、証券会社は、証券市場を取り巻く政治、経済情勢や証券発行会社の業績、財務状況等について、個人投資家とは比較にならない高度な専門的知識、経験、情報等を有する実情にある。とすれば、個人投資家が自らは情報収集のための格別の努力を払わないままに、ただ証券等取引の専門家としての証券会社の推奨、助言等を信頼して証券等取引を行うことも、その取引態様の如何によっては、やむを得ないことと言える場合がある。

右のような取引実態に鑑みれば、証券会社が、自ら進んで特定の証券等の購入を投資家に勧誘ないし推奨し、証券等取引を成立させようとする以上は、当該証券等の意義や特質、殊にその危険性の内容・程度について、投資家が正当な認識を形成するに足りるだけの情報を、的確に提供すべき法的義務(説明義務)を負う場合があり、それを尽くさないまま、自らは取引による収益(手数料等)をあげ、一方で取引から損失が出た場合には、投資家の自己責任原則をうんぬんすることは、信義則上許されない場合があると言うべきである。

また、これを先の自己責任の原則に照らして言い換えるならば、証券会社のしかるべき説明義務が尽くされない場合には、投資家には、主体的かつ自由な投資判断をなす前提として、信義則上当然与えられるべき情報が与えられない結果として、適切な投資判断を行い難い状況が生じているといえるので、右状況下において選択された取引により生じた損失については、投資家の適切な投資判断を違法に妨げた証券会社において、これを負担する責任が生じる場合もあるといえる。

但し、その説明義務の具体的内容・範囲については、証券会社が把握している限りの各投資家の投資判断能力(投資経験・知識のほか、年齢、学歴、職歴等を総合勘案して判断される。)や、投資目的、資力、資金の性格等の個人的属性、当該証券等取引に内在する危険性の度合、取引規模、その勧誘の方法、態様(どの程度熱心にあるいは強引に勧誘したか等)等に応じて決せられるべきである。例えば、セミプロ的な投資経験・知識を有する投資家に、証券取引の危険性を一から教える必要などないし、中期国債ファンドやMMFといった、安全性が高く一般国民に認知されている金融商品についてまで、その詳細な取引の仕組みや危険性の程度を説明しない限り、投資家に対する不法行為や債務不履行責任が生ずるものでもなかろう。

よって、具体的な説明義務の内容及びその程度については、各取引事例毎に個別具体的に検討する必要がある。

4  適合性の原則と不法行為(債務不履行)責任

原告らは、証券取引法や各種通達、公正慣習規則等に照らし、証券会社は、投資者の投資判断能力(投資経験・知識、年齢、学歴、職歴等の総合勘案結果)や、投資目的、資力、資金の性格等の個人的属性に照らし、最も適合した投資勧誘を行わなければならない義務を負う(適合性の原則)と主張する。

思うに、投資家の年齢、学歴、職歴や投資目的、資力、資金の性格等は、専ら個人のプライベートな情報に属するものであって、必ずしも証券会社に明らかなわけではない。通常、ある証券等取引が、自己の投資性向、投資目的、資力等にふさわしいものであるか否かを最も良く判断することができるのは、当該投資家自身である。投資判断の前提となるべき情報を与えられた後に、当該取引をなすか否かを決定することは、まさしく投資家の自己責任原則が及ぶところである。とすれば、証券会社において、常に投資家の個人的属性に照らし、最も適合した投資勧誘を行わなければならないという適合性の原則を、投資家個人に対する直接的法的義務として負担すると解することはできない。

もっとも、証券会社が把握している限りの投資家の投資判断能力、投資目的、資力、資金の性格等の個人的属性に照らして、いかなる懇切丁寧な説明を尽くされたとしても、当該投資家が、その商品特性や取引の仕組み、危険性を理解することは到底不可能であろうと、証券会社の担当者において明らかに認識できるような、複雑困難かつ危険な取引については、そもそも証券会社として、このような証券取引を、当該投資家に対し勧誘すること自体が社会的に相当でなく、かかる勧誘行為は初めから回避しなければならない、という法的義務を負うこともあり得よう。かかる投資家は、当該証券等取引に関する限り、そもそも投資家としての自己責任原則を担えるだけの能力を持たない者と言えるからである。

証券会社の担当者から見ても、当該投資家には、明らかに物事に対する理解力・判断力や、自己の財産に対する管理能力が欠落ないし衰退していて、およそいかなる説明をされようと、その説明内容を的確に理解することができず、自己の財産を守るための適切な処置を取ることができないと判断できる場合、すなわち、当該取引の複雑危険な内容に比して、当該投資家の個人的属性のレベルが低すぎるために、これにふさわしい具体的説明内容というものを観念できないような場合に初めて、適合性の原則違反が問題となるにすぎない。具体的には、高齢のため、第三者から見ても明らかにその資産管理能力が大幅に減退している人に、証券会社が複雑かつ危険な証券取引を勧誘する場合など、例外的な特殊事例についてのみ、適合性の原則違反が問題となるにすぎないと解する。

5  常識的な投資手法に反した不合理な勧誘行為等と不法行為(債務不履行)責任

証券会社の従業員が、投資家に積極的に損失を与えたり、専ら証券会社の利を得ようという意図で、殊さらに危険ないし収益性の低い取引を投資家に勧誘するという行為があるとすれば、かかる行為は違法として許されるものではない。

しかしながら、かかる行為は、右勧誘行為に際して、当該取引の危険性ないし収益性の低さを故意に隠して(又は過失によって)告げず、あるいは積極的に安全ないし有利な取引であると称して勧誘することによって、初めて実害が生じうるものであって、結局は、勧誘行為における説明義務違反、もしくは虚偽表示、誤解を生じさせる言辞、断定的判断の提供等、前述の各種違法行為の類型の中に解消されるべき問題であるから、その判断の際に併せて検討することとする。

四  争点1(二)(適合性の原則違反の有無)について

原告らは大資産家であり、本件ワラントの購入に投入した資金は、原告らの老後に備えた余裕資金であって、原告X2は、昭和四九年以来の豊富な証券取引経験を有する(前記二1)。

原告らが、いかに懇切丁寧な説明を受けても、ワラントの商品構造や危険性等をおよそ理解することができず、その資産を適切に管理する能力を有しない者であるとは認められない。

適合性の原則と不法行為(債務不履行)責任との関係について、当裁判所の理解(前記三4)を前提とする限り、被告担当者が原告らに本件ワラント取引を勧誘したことが、適合性の原則(明らかな不適合取引の勧誘行為自体を回避すべき義務)に違反しているとは認められない。

五  争点1(三)(説明義務の具体的内容)について

1  本件前期、中期取引での説明義務の内容を定めるに際し考慮すべき事項

(一) 原告らが被告との証券取引を再開するに至った経過の考慮

原告X2は、被告担当者が強引な勧誘を行い、危険な証券取引を勧めたことに抗議して、昭和六二年中ころ以降、被告との新規取引を殆ど中止し、昭和六三年五月ころには、E支店長に対し、資金引き上げの意向があることを告げたところ、昭和六三年七月ころ、E支店長がCと共に原告ら宅を訪問して、被告との取引継続を要望し、強引な勧誘を行ったり、危険な証券取引を勧めたりしないと約束したので、原告X2は、被告との証券取引を再開することを決めたという経過がある(前記二2)。

以上の経過に鑑みれば、Cは勿論のこと、被告担当者が原告X2に対し、ワラントのような複雑・難解な証券、危険な取引を勧誘するに際しては、信義則上、ワラントの仕組み・商品構造や危険性について、極めて高度な説明義務があり、さらに、ワラント購入後も、原告X2に対し、当該ワラントの現状、問題点、今後の見通し等について、正確な情報を提供する義務があったと言わなければならない。

(二) 原告らの個人的属性の考慮

原告らは大資産家であり、本件ワラントの購入に投入した資金は、原告らの老後に備えた余裕資金であって、原告X2は、昭和四九年以来の豊富な証券等取引の経験を有する(前記二1)。

しかし、原告X2は、大正一三年○月○日生まれで、本件取引を開始した平成元年七月当時満六五歳になる老女であり、尋常高等小学校を卒業した後は、特に職業につくこともなく結婚し、家業の電話番程度の手伝いをするほかは、専ら主婦業を務めてきた者であって、明らかに社会経験に乏しい(前記二1)。

原告X2は、投資経験が豊富といっても、具体的な証券取引においては、主として被告担当者から得る情報を基に、被告担当者が勧めるままに証券取引を行ってきたにすぎない。原告X2は、被告担当者から得る情報以外には、一般紙である読売新聞や一般週刊誌等しかなく、その情報源もかなり限定されていた(前記二2)。

以上の諸点に照らせば、原告X2の証券等取引の経験を強調するのは誤りであり、原告X2には、ワラントの商品構造、危険性を短期間のうちに的確に把握する能力などなかったことが認められるので、被告担当者が原告X2に対しワラントを勧誘するに際しては、ワラントの仕組み・商品構造や危険性について、時間をかけて分かり易くかみ砕いて説明する義務があったものと認められる。

(三) 原告らの投資金額等の考慮

原告らは、本件前期、中期取引を行うために、平成元年七月から一二月までの間に総額一億円を越える新規資金を投入し、平成二年七月、八月にも三〇〇〇万円以上の新規資金を投入している(乙三、五、九)。原告らが投下した右資金一億四〇〇〇万円弱は、原告らが被告に預託していた預け資産の大部分であり、原告らの老後に備えた余剰資金の大部分を占める(原告X2本人の供述)。

ワラントはハイリスク、ハイリターンの金融商品であり、本件前期、中期取引に投下された資金が、原告らの老後に備えた余剰資金であったとはいえ、その大部分をワラント投資に投下することは、非常に危険かつ無謀な投資態度である。Cは、原告X2に対し、そのように高額かつ無謀なワラント取引を勧誘しているのであり、Cには、ワラントの仕組み・商品構造や危険性について、原告らに対し、高度な説明義務があったことが認められる。

(四) 本件取引の始期の考慮

原告らの本件取引の始期は平成元年七月である(前記二3、4)。平成元年七月当時は、普通の個人投資家にとって、ワラントは未知の商品であり、その商品構造や危険性については、殆ど知られていなかったのであるから(前記一2(六)参照)、Cが原告X2に対し、最初のワラント取引の勧誘に際しては、ワラントの仕組み・商品構造や危険性について、高度な説明義務があったことが認められる。

2  本件前期、中期取引での具体的説明義務の内容

(一) 本件前期、中期取引における具体的説明義務の内容

そもそも、前記一で考察したワラントの商品構造、危険性等に鑑みれば、証券会社の担当者は、普通の個人投資家に対しワラント取引を勧誘するに際しても、一般的に高度な説明義務が課せられているところ、本件前期、中期取引については、さらに、前記1(一)ないし(四)記載の特殊事情を考慮しなければならないのであり、Cは、原告X2に対し、本件前期、中期取引を勧誘するに際しては、通常の説明義務以上の極めて高度な説明義務が課せられていたことが認められる。

そこで、Cには、本件前期、中期取引を勧誘するに際しては、原告X2に対し、ワラントの仕組み・商品構造や、危険性の内容・程度を具体的に理解させるために、次の各事項(以下「説明義務(1)ないし(9)」という。)について、具体的な数値例を提示する等して、原告X2の理解の程度を確かめつつ、平易かつ丁寧に根気強く説明する義務があったものと認める。

(1) ワラントは、権利行使期限内に権利行使価格で新株を購入する権利であること、及び当該銘柄の権利行使期限と権利行使価格を説明する(前記一1(一))。

(2) ワラントは、権利行使期限が過ぎると無価値になることを説明する(前記一2(一))。

(3) 外貨建ワラントは、為替変動の影響を受けることを説明する(前記一2(五))。

(4) ワラントのハイリスク・ハイリターン性

ワラントは、株よりも価格変動幅が大きく、一般的には、株価上昇局面では株価以上の高収益をあげる可能性があるが、株価が下落局面になったときのワラント価格の下落率は、株価よりも大きいことを説明する。

(5) パリティーとプレミアムの実質的意義

ワラントの本質的価値は、権利行使によって時価より安値で株式を取得できる点にあり、株式の時価と権利行使価格との差額がパリティーにあたること、右本質的価値(パリティー)を越えた値が付いているワラントを購入するということは、権利行使期間内に、株式時価よりもプレミアム相当分割高の価格で、株式を購入する予約をするに等しく、その損益分岐点は、株価が株コストと同額にまで上昇することであること、右損益分岐点(株コスト)から株式時価を差し引いたものが、プレミアム相当部分にあたること、以上の点について説明する(前記一1(三)(四)、同2(三))。

さらに、株価が権利行使価格を割り込んでいるマイナスパリティーワラントについては、その本質的価値(パリティー)を全く持たず、プレミアムのみで価格が構成されていること、このようなワラントは、ワラント価格が全てプレミアムと評価されるだけでなく、権利行使価格と株価との差額相当部分もプレミアムとして評価されることになること、以上の点について説明する(前記一1(四)(五))。

その上で、パリティーとプレミアムの実質的意義を平易に理解させるために、ワラントを購入するということは、例えば、プラスパリティーのワラントであれば、次の①のとおり説明し、マイナスパリティーのワラントであれば、次の②のとおり説明する。

① 現在一株当たり時価七〇〇円の△△株式を、今後三年以内に五〇〇円で購入することのできる権利を、一株あたりの価額三〇〇円で購入するものである、という説明をする(前記一1(二)(三)参照)。

② 現在一株当たり時価三〇〇円の△△株式を、今後三年以内に五〇〇円で購入することのできる権利を、一株あたりの価額五〇円で購入するものである、という説明をする(前記一1(四)(1)参照)。

(6) プレミアムと株価連動性・投資効率との関係

一般に、プレミアムが高いワラントほど、ワラントは株価連動性が低くなって、投資効率が悪くなることを説明する。

具体的には、株価が権利行使価格を大きく下回るマイナスパリティーワラントや、株価は権利行使価格を上回っているものの、ワラント価格が高く、一株あたりワラントコストが高くなっているプラスパリティーワラントほど、株価連動性は低く、投資効率が悪くなることを説明する(前記一1(五)、同2(四))。

(7) ワラントと時間的経過の関係

ワラントは、権利行使期限が徒過しなくても、残存期限が近づくにつれ通常価格が低落すること、マイナスパリティーワラントは、権利行使期限が近づくにつれ、権利行使期限前でも、その損失額が投資資金のほぼ全額に及ぶ可能性があること、残存期間が二年を切ると、その流通性が低下すると言われており、売却しづらくなる可能性があることを説明する(前記一1(四)(2)、同2(一)(二))。

(8) ワラント価格表示の意味と日本円への換算方法

ワラントの価格は、ワラント債の券面額を一〇〇ポイントとし、これに対する百分率(パーセンテイジ)で表示されていること、ポイントで表示されたワラント価格を日本円に換算するには、ワラント価格にワラント債の額面を乗じたものを一〇〇で除する計算を経なければならず、外貨建ワラントの場合には、さらに、これに現在の為替レートを乗じなければならないことを説明する(前記一1(六)、同2(五))。

(9) ワラント時価情報の入手方法

ワラント時価情報の入手方法は、被告に問い合わせる方法以外では、株取引の専門紙か、日本経済新聞紙上に掲載されるポイント表示による気配値に限られていること、しかも、日本経済新聞には、一部のワラントの気配値しか掲載されていないことを説明する(前記一1(六)、同2(五)参照)。

(二) 被告の主張に対する判断

被告は、被告が原告らに本件取引を勧めるに際しては、「権利行使期限が過ぎればワラントは無価値となること」、「ワラント価格は株価より値動きが激しいこと」を告知すべき以外、何らの説明義務もないと主張するので、被告には前記(一)(5)ないし(9)記載の説明義務があったことについて、以下補足して詳論する。

(1) 説明義務(5)(パリティーとプレミアムの実質的意義)、同(6)(プレミアムと株価連動性・投資効率との関係)について

ワラントの本質的価値は、ひとえに権利行使価格よりどれだけ株価が値上がりするか(時価よりどれだけ安く株式を取得できるか)、という一点(すなわち、パリティーの大きさ)にかかっている。これより高値、すなわちプレミアム付きでワラントを購入する場合のプレミアム部分は、単にその人気の度合を示すものに過ぎず、価値の裏付けがない。

ワラントを購入する利点は、その投資効率の高さ(ハイリターン性)にあるが、前記一1(二)(四)(五)で考察したように、理論上、ワラントの投資効率の高さを裏付けるものは、主としてパリティーの変動の在り方にかかっており、通常、プレミアムが増大するほど、株価連動性、投資効率も下がるから、証券会社は、投資効率の高さをうたってワラント購入を勧誘する以上、プレミアム増大と株価連動性・投資効率の悪化との関係も、投資家に告知するのが当然である(説明義務(6)の必要性)。

特に、株価が権利行使価格を割り込んでいるマイナスパリティーワラントは、その本質的価値を全く持たず、ただプレミアムのみで価格が構成されているから、その株価連動性、投資効率の高さが理論的にも保障されているとはいえないことを、投資家に説明しなければならない(前記一1(四)(1)、(五))。そして、ワラント購入時にはプラスパリティーで、プレミアムの低いワラントであっても、株価の値下がり方次第では、いつマイナスパリティーとなり、プレミアムが増大するかもしれないので、後述の時的要素とともに、一旦値下がりしたワラントの回復期待の度合、具体的にはその損切り時期を検討する指標とするためにも、購入の勧誘当初から、プレミアムと株価連動性の関係を告知しておく必要がある。

このように、ワラントの商品構造・危険性を説明するにあたり、パリティーとプレミアムの意義、関係を説明することは、大変重要なことである。被告の同業者たる新日本証券株式会社作成のワラント投資に関する解説書にも、「プレミアムが小さければ小さいほど、ワラント価格と株価との連動性が強くなる。銘柄選択には欠かせない指標である。」と記載されている(甲三一の4、二五頁)。

しかも、原告X2のような乏しい投資判断能力、理解力しか有していない投資家にとっては、単に「ワラント価格はパリティーとプレミアムで構成され、そのうち、株価と権利行使価格との差額を越える部分がプレミアムである(但し、プラスパリティーワラントの場合。マイナスパリティーワラントでは、ワラント価格に権利行使価格と株価との差額を加えたものがプレミアムとなる。)」旨の抽象的説明だけでは、ワラントの仕組み、商品構造を理解するのには、極めて不十分である。

それゆえに、まず、プレミアムの意義が、株式時価より割高な株式を購入(予約)するに等しいものであることを告げたうえで、具体的な数値、それも通常人では分かりにくい割合表示(パーセンテイジ)ではなく、一見して把握しやすい日本円による金額表示で、具体的な過去の取引事例、せめて想定事例を提示するなどして、その説明をすべきである。この場合、株式の時価と権利行使価格の差額が具体的なパリティーの金額表示になるが、プレミアムを金額で表現したものが、ワラント権利行使の損益分岐点(株コスト)と株式時価との差額である。

加えて、ワラントの権利性には時的限界(権利行使期限)があることも説明しなければならないので、これらの事項を端的に具体的な金額で表すとすれば、「時価一株○○円の株式を、今後××年以内に、△△円で購入する権利を、一株あたり□□円で購入しませんか。」という勧誘文言となる(説明義務(5)の必要性。前記一2(三)参照)。ワラントの商品構造の複雑性を考えると、このような説明でも、なお普通の個人投資家の理解が得られるか不安はあるが、あまり詳細な説明をするとかえって混乱を招くであろうし、右文言によれば、投資家は、少なくとも、自分がどれだけ割高に株式の購入予約をしようとしているのかを知り、残存期間内にどれだけ株価が上昇するかを予測することが重大だ、ということに気付くであろう。

結局、プレミアム付きワラント購入の意義や、その損益分岐点を告知せよという意味は、株価、権利行使価格、権利行使期間、ワラント価格といった個々の用語の意味を伝えるだけではなく、相互の関係の中に表れるパリティーやプレミアムの意義、その有機的関連性というものを、原告X2のように理解力が高いとはいえない投資家でも分かるように説明せよ、ということなのである。

(2) 説明義務(7)(ワラントと時間的経過の関係)、同(8)(ワラント価格表示の意味と日本円への換算方法)、同(9)(ワラント時価の入手方法)について

ワラントは期限付き商品であり、プレミアム付き商品であるという性質から、株価変動による影響だけではなく、時間の経過に伴ってプレミアムが減少し、同時にワラント価格も低落する、という一般的危険性を持っており、特に、マイナスパリティーワラントは、権利行使期限が近づくにつれ、権利行使期限前でも、その損失額が投資資金のほぼ全額に及ぶ可能性があるとか、残存期間が二年を切ると、その流通性が低下し、売却しづらくなる可能性があると言われている(前記一1(四)(2)、同2(一)(二))。

その一方で、ワラント価格は、ポイント(ワラント額面に対するパーセンテイジ)で表示される上、外貨建ワラントでは、為替変動の影響も受けることから、一見しただけでは、日本円でのワラント時価(気配値)を把握することが困難である(前記一2(五)(1))。しかも、株価のように一般の新聞やテレビ等では、そのポイント価格(気配値)すら発表されておらず、価格情報を得ることが株式よりもはるかに困難である(前記一1(六)、同2(五)(2))。

これらの事実は、ワラントは時間の経過と共に目減りしていく資産であるのに、投資家は、ワラントを一旦購入した後は、ワラントの価格情報を日々入手して、自らその変動状況をチェックすることが困難であることを意味している。

ワラントは、購入した当初はパリティーが高く、プレミアムの低い優良ワラントであっても、その後の株式相場次第では、いつ価値が下落しマイナスパリティー化するとも限らない。投資家は、ワラント購入後、常に株価及びワラント価格の動向を把握し、場合によれば、損切りしてでも果敢にワラントを処分しなければ、時間の経過と共に紙屑と化してしまう危険を常に潜在的に内包している。

現に、別表(一)4、(二)5のベスト電器ワラントは、購入当初プラスパリティーで、プレミアムも八・九二ないし一〇・六五パーセントしかない優良ワラントであったのに、平成二年初頭以降の株式暴落に伴いワラント価格も急落し、結局は、転売も権利行使もできないまま失効している(別表(四)の9、10参照)。

以上のワラントの特質及び危険性に照らせば、Cには、原告X2に対し、本件前期、中期取引を勧誘するに際しては、説明義務(7)(ワラントと時間経過の関係)、同(8)(ワラント価格表示の意味と日本円換算方法)、同(9)(ワラント時価の入手方法)があったことが認められる。

(三) 原告らの主張に対する判断

原告らは、外貨建ワラントは証券会社との相対取引であって、投資家と証券会社との利害関係が直接対立することから、あえて投資家に危険を押しつけ、証券会社に利を与えるような劣悪ワラントを勧めたり、機関投資家等への損失補填原資に利用するため、不当に高くワラントを売り付けたり、安く買いたたく等の不公正な取扱を受ける危険がある等として、ワラント取引が相対取引であることをも投資家に説明すべき義務があると主張する。

しかし、原告らの懸念は、一般論としては理解できなくないとはいえ、証人C、同Bの各証言によると、CやBが、原告らに故意に損失を与えようとしたとか、専ら被告の利を図る取引を勧誘した、と認めることはできないこと、また、証券会社一般が、現実に右のような取引をすることがよくあるものとは認定できないことを考慮すれば、道義的観点から相対取引の点も説明した方がよいとは言えても、その不履行が、投資家に対する不法行為(債務不履行)責任を構成する法的義務としてまで、これを告知すべき義務があるとはいえない。

六  争点1(四)(被告担当者の説明義務違反の有無)について

1  本件取引開始直前の説明義務違反について

前記二の3、4の認定事実に、証拠(証人C、証人B、原告X2本人〔一部〕)を総合すると、Cは、本件取引開始直前の時点で、説明義務(1)ないし(9)のうち、同(1)(ワラントは、権利行使期限内に権利行使価格で新株を購入する権利であること等)、同(2)(ワラントは権利行使期限が過ぎると無価値になること)、同(3)(外貨建ワラントの価格は為替変動の影響を受けること)を履行したことは認められるが、その余の説明義務は履行していないことが認められる。すなわち、

(一) 説明義務(4)(ワラントのハイリスク・ハイリターン性)について

Cは、原告X2に対し、ワラント価格は株や転換社債より値動きが激しく、ハイリスク・ハイリターンである等と、一応の説明はしている。

しかし、Cは、株とワラントの具体的価格変動例を記載したメモを原告X2に提示して、右説明をしているが、その内容は、株価が上昇した場合のプラスパリティーワラントが、いかに株より効率よく値上がりをするか、という点を強調しただけであり、株が値下がりした例や、マイナスパリティーのワラント例等の具体例を説明しておらず、Cは、ワラントの投資効率の高さを一方的に強調して、その購入を熱心に勧誘しているにすぎない(証人Cの証言)。

したがって、Cは、ワラントのハイリターンの側面のみを強調し、ハイリスクの点に対する警告が不足していたと評価せざるを得ず、説明義務(4)を完全に履行しているものとは認められない。

(二) 同(5)(パリティーとプレミアムの実質的意義)について

Cは、ワラントには、株式時価と権利行使価格の差額にあたる理論的価値部分(パリティー)があること、ワラント価格には、右理論的価値部分のほかに、将来的な株式の値上がり期待値を示す価格(プレミアム)が付加されることについて、一応の説明はしている。

しかし、Cは、もっとも肝心なプレミアムの実質的意義、すなわち、ワラントを購入することの意味が、プレミアム分、株式時価より割高に株式を購入する予約をするに等しいものであること、その場合のプレミアムを日本円で示すとすれば、権利行使における損益分岐点(株コスト)から株式時価を差し引いたものが該当すること等については、何の説明もしていない(証人Cの証言)。

また、Cは、その後、個別のワラント取引を勧誘するにあたっても、一度も、「時価一株○○円の株式を、今後××年以内に、△△円で購入する権利を、一株あたり□□円で購入しませんか。」という趣旨の説明や、これら権利行使価格、株価、ワラントコストや権利行使期限の有機的関連性について、説明をしたことはなかった(証人Cの証言)。

Cが、右の点につき説明をしないまま、ワラント価格には、理論価格(パリティー)の他に、期待値(プレミアム)が付加されることを伝えたとしても、理解力に乏しい原告X2はもちろん、通常以上の理解力を持った投資家ですら、ワラントに株式の値上がり期待値(プレミアム)がつくことが、自分がワラントを購入する際の負担の大きさ(株購入に際しての割高さ)を表す指標になるとは、到底気が付かないであろう。

結局、Cは、パリティーとプレミアムの実質的意義につき、何らの説明もしていないと言わざるを得ず、説明義務(5)に違反している。

(三) 同(6)(プレミアムと株価連動性・投資効率の関係)について

Cは、ワラントの投資効率の高さを勧誘するのみで、プレミアムが高いワラントほど、ワラントは株価連動性が低くなって、投資効率が悪くなることなどは、全く説明していない(証人Cの証言)。

Cが原告X2に交付したパンフレット(乙一二の四頁)中でも、「株式とワラントの価格変動率比較」と称する中に、株価とパリティーとの価格変動例(変動率)が掲載されていて、ともすれば、ワラント価格はプレミアムの大小とは関係なく、単純に株価に連動し、かつ株価より高率で変動する、との誤解を与えかねない説明がなされている。

Cは、説明義務(6)を全く履行していない。

(四) 同(7)(ワラントと時間的経過の関係)について

Cは、ワラント価格は権利行使期間が長い方が有利で、短くなるとゼロに近づくことは説明しているが、マイナスパリティーワラントは、権利行使期限が近づくにつれ、権利行使期限前でも、その損失額が投資資金のほぼ全額に及ぶ可能性があることや、残存期間が二年を切ると、その流通性が低下すると言われており、売却しづらくなる可能性があることは説明しておらず(証人Cの証言)、説明義務(7)を完全には履行していない。

(五) 同(8)(ワラントの価格表示の意味と日本円への換算方法)について

Cは、ワラントの価格表示の意味と日本円への換算方法について、一応の説明をしたことは認められるが、理解力が高いとはいえない原告X2に対し、どの程度分かりやすく丁寧に説明したかという点については、大いに疑問がある。

というのも、ポイントの日本円への換算方法には、ワラント債額面の数値(外貨建のワラントでは、さらに現在の為替レート)が必要不可欠であるのに、Cが個別銘柄のワラントを勧誘する際に、原告X2にかかる数値を教えた形跡が窺えないからである(証人Cの証言)。

Cとしては、そもそも、原告X2が自らポイントの円換算計算をするなどとは思ってもいなかったために、原告X2の理解の程度も確かめず、通り一遍の説明だけを行った可能性を否定できない。

前記二5(一)によれば、平成二年五月半ば以降、被告が新しく使用するようになったワラント専用の預り証にも、ワラント債の額面表示は記載されていないのであり、被告自身、顧客の円換算計算の便宜には配慮していない姿勢が窺われる。

以上の次第で、Cは、説明義務(8)を完全には履行していない。

(六) 同(9)(ワラント時価情報の入手方法)について

Cは、ワラント時価情報の入手方法については、何らの説明もしておらず、(証人Cの証言)、説明義務(9)を全く履行していない。

2  本件前期、中期取引での説明義務違反について

前記二4、5の認定事実に、証拠(証人C、証人B、原告X2本人〔一部〕)を総合すると、Cは、本件前期(平成元年七月から平成二年二月まで)取引、中期(平成二年七月、八月)取引において、本件取引開始時点と同様、説明義務(4)ないし(9)に違反していることが認められる外、以下述べる説明義務が特に問題となる。すなわち、

(一) 権利行使期限を告知しなかった取引があること

Cは、原告X2に対し、ワラント購入を勧誘するにあたり、最初のうちこそ権利行使期限も告知していたが、やがて、権利行使期限を告知しないままワラントを勧誘し、取引を成立させた例があった(前記二4、Cの第一三回証人調書の二九丁裏から三〇丁裏)。

権利行使期限は預り書には記載されているが(乙一〇五ないし一一二)、預り書は、原告X2がワラントを購入してから交付を受けるものである。原告X2は、Cから権利行使期限の説明を受けず、権利行使期限がいつであるかも分からないまま、Cに勧められるままに、ワラントを購入していたのである。原告X2が、権利行使期限も分からないで、ワラントを購入していた例があるということは、原告X2自身、ワラントの仕組み、商品構造や危険性について、全く理解していなかった決定的な証拠といえる。

いずれにせよ、Cが原告X2にワラントを勧誘するに際し、当該ワラントの権利行使期限を告知していなかった取引は、Cが説明義務(1)に違反していた重大な違法行為である。

(二) 本件中期取引での評価損の告知義務違反について

平成二年初頭から株式相場が暴落し、本件中期(平成二年七月、八月)取引時点では、原告らが本件前期(平成元年七月から平成二年二月)取引で購入し、売却時期を失したワラントが大きく値下がりし、購入価格の半分近くにまで値下がりしていた(証人C、証人Bの各証言)。しかし、一般の個人投資家が、ワラントの時価評価額を把握することは非常に困難であり、証券会社の担当者から教えてもらわない限り、手持ワラントが具体的に幾らの評価損を出しているかを把握するのは、不可能に近い(前記一2(五))。

しかるに、CやBは、本件中期(平成二年七月、八月)取引までの間に、原告X2に対し、本件前期取引で購入した手持ワラントについて、株式相場の暴落に伴い、評価損が出ていること自体は告げていたものの、その具体的な金額ないし割合についてまでは、原告X2に告げていなかった(前記二5)。そのため、原告X2は、本件中期(平成二年七月、八月)取引時点では、本件前期取引に購入した手持ワラントが、購入価格の半分近くにまで値下がりしていることなど、全く知らなかった(原告X2本人の供述)。

ところが、Cは、平成二年七月、八月にかけて、原告X2に対し、ワラント投資額を一層拡大することによって、それまでの評価損を挽回しようと提案して、手持ワラントの評価損を告げないままで、原告X2に再びワラントの購入を勧め、別表(四)の24ないし26のワラントを購入させている。CやBは、右時点までに説明義務(4)ないし(9)を履行しておらず、原告X2はワラントの危険性について全く理解していなかった。

Cが、そのような原告X2に対し、ワラント投資を一層拡大することによって、それまでの評価損の挽回を提案するのであれば、Cには、信義則上、説明義務の一環として、原告らの手持ワラントの具体的な評価損額(少なくとも割合)を告知する義務があった、というべきである。しかるに、Cは、原告X2に対し、本件中期取引を勧誘するに際し、右説明義務を履行しておらず、本件中期取引での説明義務違反は特に悪質である。

(三) 高プレミアム・マイナスパリティーワラント勧誘に際しての説明義務について

本件中期取引で購入されたワラントは、大きくマイナスパリティーとなって、高いプレミアムをつけていたものであった(別表(四)24ないし26参照)。

Cは、原告X2に対し、そのような高プレミアム・マイナスパリティーワラントを勧誘するに際しては、説明義務(5)(パリティーとプレミアムの実質的意義)、説明義務(6)(プレミアムと株価連動性・投資効率の関係)、説明義務(7)(ワラントと時間的経過の関係)で指摘している高プレミアムワラント、マイナスパリティーワラントの問題点・危険性を十分に説明して、原告X2に完全に理解させる義務があった。

しかるに、Cは、原告X2に対し、右高プレミアム・マイナスパリティーワラントの問題点・危険性について、何の説明もせず、かえって、今までの損失を取り戻し、ハイリターンを得るためには、引き続きワラント取引を行うしかない等と、積極的にその投資効率の高さを強調して、本件中期取引でのワラントの購入を勧めている。

そもそも、C自身、「本件中期(平成二年七月、八月)取引時点では高プレミアム・マイナスパリティーワラントは、一般に株価との連動性が低くなるという事実や理論さえも知らなかった。平成三年になって初めてそのようなことを知った。」(Cの第一三回証人調書七丁表~八丁裏)と証言している。

本件中期取引当時、この程度の知識しかなかったCに対し、高プレミアム・マイナスパリティーワラントの問題点・危険性について、説明を期待することなど、所詮無理な話だったのである。

本件中期取引でのワラント勧誘に際しての、Cの説明義務(5)(パリティーとプレミアムの実質的意義)、説明義務(6)(プレミアムと株価連動性・投資効率の関係)、説明義務(7)(ワラントと時間的経過の関係)の違反の程度は、特に重大である。

3  本件後期取引での説明義務違反について

原告X2は、平成二年一一月九日、Bから、原告X1と原告X2名義で買い付けたワラントの時価評価額を告げられ、同価額が記載された「ワラントお預かり明細のお知らせ」(乙五〇、五二)を交付され、約八九〇〇万円の評価損が発生していることを知って(前記二6)、ワラント取引の重大な危険性について身をもって認識し、さらに、平成三年二月初めころ、原告ら保有ワラントの時価評価額は合計約金四四四〇万円に過ぎず、評価損額が合計約金一億三〇〇〇万円弱に及んでいることを示す通知書を送付されて(前記二7)、ワラント取引の重大な危険性について、骨の髄まで思い知らされた。

しかも、Bは、被告本社の全社的な指示を受けて、ワラントの特質を顧客が理解しているかを確認する作業の一環として、平成二年一一月九日、原告ら宅を訪問し、原告X2に対し、原告らのワラントの時価評価額を告げると共に、右各ワラントの買付単価(ポイント)、気配値(ポイント)、時価評価額及び権利行使満了日がそれぞれ記載された、「ワラントお預かり明細のお知らせ」を交付し、改めて、原告ら保有ワラントの権利行使価格及び権利行使期限を伝えた上で、ワラントは、当該銘柄の株価が権利行使価格を上回らない限り、その理論的価値は生じないこと、最終的に権利行使期限が到来すれば、ワラントは無価値になることを説明している(前記二6)。

以上の諸点に照らせば、CやBは、平成二年一一月九日以降も、原告X2に本件後期取引を勧誘するに際し、説明義務(5)ないし(9)を完全には履行していなかったが(証人C、同Bの各証言)、これをもって、被告が不法行為責任(使用者責任)、債務不履行責任を問われるだけの、違法な説明義務違反があったものとは評価できない。

4  小括

以上によると、Cは、本件前期、中期取引を勧誘する際に、説明義務(4)ないし(9)を履行しておらず、Cによる右各取引の勧誘行為は違法であると認められるが、C及びBによる本件後期取引の勧誘行為は、違法であるとは認められない。

よって、被告は原告らに対し、本件前期取引、中期取引により原告らが被った損害中、Cの違法な勧誘行為と相当因果関係のある損害について、不法行為(使用者責任、民法七〇九条、七一五条)による賠償責任がある。

七  争点2(原告らの損失と相当因果関係、損益相殺)について

1  原告らの損失額

本件取引による原告らの損失額は、以下のとおりである。

(一) 原告X1

(1) 本件前期(平成元年七月から平成二年二月まで)取引による損失額

別表(一)の4、7取引による損失額合計五一四九万三八七五円から、別表(一)の1、2、3、5、6取引による利益額合計三一一万七五一三円を控除した残額(損失額)四八三七万六三六二円

(2) 本件中期(平成二年七月、八月)取引による損失額

別表(一)の8取引による損失額九五七万五二五〇円

(3) 本件後期(平成二年一一月から平成三年四月まで)取引による損失額

別表(一)の13、14取引による損失額合計一三二二万七六八七円から、別表(一)の9ないし12取引による利益額合計五二五万六六三一円を控除した残額(損失額)七九七万一〇五六円

(4) 以上の合計損失額六五九二万二六六八円

(二) 原告X2

(1) 本件前期(平成元年七月から平成二年二月まで)取引による損失額

別表(二)の5、10ないし13、15取引による損失額合計五八六八万四五一九円から、別表(二)の1ないし4、6ないし9取引による利益額合計五六〇万六九一八円を控除した残額(損失額)五三〇七万七六〇一円

(2) 本件後期(平成二年一一月から平成三年四月まで)取引による損失額

別表(二)の21ないし23取引による損失額合計一八五九万〇二八〇円から、別表(二)の16ないし20取引による利益額合計四六六万二三七四円を控除した残額(損失額)一三九二万七九〇六円

(3) 以上の合計損失額六七〇〇万五五〇七円

(三) 原告X3

(1) 中期(平成二年七月、八月)取引による損失額

別表(三)の1、2取引による損失額合計一九二五万八一四〇円

(2) 後期(平成二年一一月から平成三年四月まで)取引による損失額

別表(三)の6、7取引による損失額六三八万五三五八円から、別表(三)の3ないし5取引による利益額合計一〇〇万二一三七円を控除した残額(損失額)五三八万三二二一円

(3) 以上の合計損失額 二四六四万一三六一円

2  相当因果関係の有無ないし損益相殺の適否について

(一) 株式相場の下落による相当因果関係の断絶について

被告は、本件取引により原告らが損失を被ったのは、平成二年初頭以降のバブル経済崩壊による株式相場全体の急落に伴うものに過ぎず、Cの勧誘行為と原告らの損失との間に、相当因果関係はない旨主張する。

しかしながら、原告らは、Cの説明義務に違反した違法な勧誘の結果、本件前期、中期取引の各ワラントを購入し、損失を被ったものであるところ、証券相場が常日頃から様々な政治、経済情勢を反映して、時には高騰し、あるいは急落することは当然自明のことがらであって、およそ、株式相場全体が急激に悪化したことが、右違法な勧誘行為当時、全く想像もできなかった不可抗力的事態と捉えることなどできず、株式相場全体の急激な悪化を理由に、Cの違法な勧誘行為と、原告らの損失の発生との間には、相当因果関係はない旨の被告主張は非常識であって、到底認めることができない。

(二) 原告X2の投資行動から見た相当因果関係の断絶について

(1) 被告は、原告X2が、平成二年一一月九日、Bから、八九〇〇万円の評価損が発生していることを知らされ、平成三年二月初旬、被告から、一億三〇〇〇万円弱に及ぶ評価損が発生していることを通知されて、ワラント取引の重大な危険性を十分に認識した後も、新たなワラント取引を行っていることに照らせば、仮に、Cが、本件前期、中期取引勧誘の際に、説明義務(4)ないし(9)を完全に履行し、原告X2に対し、ワラント取引の危険性を十二分に説明していたとしても、原告X2は、やはり右各取引をしていた可能性が極めて高いから、Cの説明義務(4)ないし(9)違反による勧誘行為と、本件前期、中期取引による損失の発生との間には、相当因果関係がない旨主張する。

(2) しかし、原告X2は、昭和六二年中ころ以降、被告担当者が強引な勧誘を行い、危険な証券取引を勧めたことに抗議して、被告との新規取引を殆ど中止し、昭和六三年五月ころには、E支店長に対し、資金引き上げの意向があることを告げたところ、昭和六三年七月ころ、E支店長がCと共に原告ら宅を訪問して、被告との取引の継続を要望し、強引な勧誘を行ったり、危険な証券取引を勧めたりしないと約束したので、原告X2は、被告との取引を再開することを決めたという経過がある(前記二2)。

したがって、原告X2は、本件前期取引時点では、Cから説明義務(4)ないし(9)の説明を受け、ワラントの問題点、重大な危険性について、十分な説明を受けておれば、本件前期取引をしなかった可能性が大であり、Cの説明義務(4)ないし(9)に違反した本件前期取引での勧誘行為と、原告らの本件前期取引での損失の発生との間には、相当因果関係があることが明らかである。

なお、本件取引を開始した平成元年七月当時、原告らは三名で合計金二億数千万円から金三億円近い被告への預け資産を有し、相当の余裕資金があったと認められるにはしても、逆に言えば、あえて重大な危険を冒してまで資産の増大に努める必要性もまったくなかったと言えるのに対し、原告X2が、八九〇〇万円ないし一億三〇〇〇万円弱の各評価損が発生していることを知った平成二年一一月や平成三年二月初旬の時点では、同人は、右評価損が発生したからこそ、却っていかなる危険を冒してでも資産の挽回を図りたいという状況に追い詰められていたと言い得るのであって(ちなみに、証拠〔甲一〇一、一〇二、原告X2〕によれば、原告X2は、当時本件取引によって多額の損失をきたしたことを原告X1や原告X3には隠していたことが認められるので、同原告らに知られる前に何としてでも右損失を回復したいと考えたことは容易に推測できる。)、平成二年一一月ないし平成三年二月時点での原告X2の投資判断や行動をもって、本件取引開始当初の時点でも同様に、あえて危険の大きな取引を行ったであろうと推認することは合理的でない。

(3) 次に、原告X2は、本件中期(平成二年七、八月)取引時点で、Cから、保有ワラントに評価損が生じていることは告げられたが、具体的な損失金額又は割合までは告げられていない状態で、平成二年四月から七月中旬にかけて株価が少し持ち直してきたことや、今後の長期的な相場見通しとして、やはり株価は上昇するとの予測をしていること等を説明され、今までの損失を取り戻し、ハイリターンを得るためには、引き続きワラント取引を行うしかない等と、積極的にその投資効率の高さを強調されて、ワラント購入を勧誘されたため、本件中期取引をしたという経過がある(前記二5(一))。

しかも、本件中期取引のワラントは、大きくマイナスパリティーとなって、高プレミアムをつけていたものであり(別表(四)の24ないし26)、原告X2は、もともと、そのような危険な証券取引は嫌っていたのに、Cからは、高プレミアム・マイナスパリティーワラントの問題点・危険性について、何の説明も受けていない(証人Cの証言)。

したがって、原告X2は、本件中期取引の時点で、Cから、本件前期取引で購入したワラントの具体的な評価損を告げられ、高プレミアム・マイナスパリティーワラントの重大な危険性、問題点を指摘されて、Cから説明義務(4)ないし(9)の説明を受け、ワラントの問題点・危険性について十分に理解しておれば、本件中期取引もしなかった可能性が大であり、Cの違法な本件中期取引の勧誘行為と、原告らの本件中期取引での損失の発生との間にも、相当因果関係が認められる。

(三) 予見可能な損失額の相当因果関係について

被告は、本件取引の勧誘行為に説明義務違反があったとしても、右違法な勧誘行為を前提とした場合に予見可能な範囲の損失額は、取引開始時において原告X2がその負担を覚悟していたものであり、勧誘行為に説明義務違反があったために生じた損失ではないから、CやBの勧誘行為との間に相当因果関係はない、右勧誘行為を前提に原告X2が予見し得た損失額とは、本件取引資金捻出のため原告らが売却した株式、投資信託等を、そのまま保有していたと仮定しても、なお発生したであろう損失額に等しいと主張して、右株式等を本訴提起時まで保有したと仮定した場合に発生した評価損額金七五三五万〇九三八円を、本件損失額から控除すべきであるとする。

しかしながら、Cが、本件前期、中期取引に先立ち、説明義務(4)ないし(9)等を完全に履行しておれば、原告X2は、もともと危険な証券取引は嫌がっていたのであるから、その説明から理解できる危険な本件前期、中期取引をしていなかった可能性が大であることが認められ、原告X2が本件前期、中期取引をしていなければ、原告らには本件前期、中期取引による損失は全く発生していなかったのであるから、Cの本件前期、中期取引での説明義務違反と、原告らの本件前期、中期取引による全損失との間には、相当因果関係があることが明らかである。

被告の前記主張は、独自の理解し難い見解であって、採用できない。

(四) 損切りを怠ったことによる損失の相当因果関係について

被告は、原告X2は、平成三年二月初旬、被告から、原告ら保有ワラントの時価評価額通知を受け、一億三〇〇〇万円弱にも及ぶ評価損が発生していることを知り、ワラント取引の危険性を十二分に認識しているので、右時点で残存していたワラント評価額四四三八万六一六五円は、ワラントの危険を十二分に理解した原告X2が、自らの責任と判断で損切りを怠ったために、右ワラントの権利が失効して紙屑と化し、右四四三八万六一六五円の損失を発生させたものであり、Cの勧誘行為と相当因果関係がないと主張する。

しかし、次の(1)(2)(3)に照らせば、原告X2が、平成三年二月初旬、ワラントの危険性を自覚したからといって、直ちに保有ワラントの損切りしなかったことが、原告X2自身が選択した結果としての損失の発生であるとはいえず、その後に生じた保有ワラントの権利失効による損失と、Cの違法な勧誘行為との間には、なお相当因果関係があることが認められる。

(1) 原告X2が平成三年二月初旬の時点で、保有ワラントの損切りを躊躇したことについては、原告X2が、右時点でも、CやBから、説明義務(5)(パリティーとプレミアムの実質的意義)、同(6)(プレミアムと株価連動性・投資効率との関係)、同(7)(ワラントと時間的経過の関係)について、完全な説明を受けておらず、残存期間が短くなった高プレミアム、マイナスパリティーワラントの問題点・危険性について、十分に理解していなかったことも影響していること(証人C、同Bの各証言、原告X2本人の供述)。

(2) 普通の個人投資家にとって、既に多額の評価損が出ている保有ワラントの損切りを行って、巨額の損失を現実化させることは、相当な勇気が必要とされること。

(3) CやBが、平成二年以降、原告X2に対し、保有ワラントの評価損を取り戻すため、収益性の高いワラント取引の拡大を主張して、その購入を積極的に勧めていたこと(前記二の5、6)。

(五) 損益相殺の是非

被告は、原告らは、本件取引資金捻出のために、株式や転換社債等を売却しているところ、原告らが本件取引を行わなければ、原告らは従前どおり右株式等を保有していたはずであり、右株式等は、本訴提起当時金七五三五万〇九三八円の評価損を生じていたから、原告らは、本件取引を行ったことにより、右株式等の保有によって当然生じていたはずの右同額の損失の発生を免れているとして、損益相殺の法理により、右評価損額を本件取引による損失額から控除すべきであると主張する。

しかしながら、本件取引に投資されたものは、あくまでも当該ワラントの購入資金(現金)なのであって、原告らは、本件取引によって、右資金の捻出用に売却された株式や投資信託等を直接に失ったものでもない。原告らが右株式等を手放した動機は、本件取引資金捻出のためであったとしても、右売却と本件取引におけるワラントの購入が、同一原因によって生じたということはできないから、右株式等を保有していた場合に生じたはずの評価損額を、本件前期、中期取引による損失額から控除すべき理由とはならない。

右被告の主張も理由がない。

3  小括

以上の認定判断によると、Cの違法な勧誘行為により、原告らが本件前期、中期取引を行ったものであり、その結果、原告X1は前記1(一)(1)(2)の損失を被り、原告X2は前記1(二)(1)の損失を被り、原告X3は前記1(三)(1)の損失を被ったことが認められ、Cの違法な勧誘行為と右各損失との間には、相当因果関係が存在することが認められる。

八  争点3(過失相殺)について

1  過失相殺の可否について

原告らは、Cの本件前期、中期取引勧誘行為は、故意に原告らへの危険の押し付け、損害の発生を意図した詐欺行為と評価され、右各取引につき原告X2に過失はなく、過失相殺が適用されるべき事案ではないと主張する。

しかし、証人C、同Bの各証言によると、Cは、ワラント取引を通じて原告らに儲けてもらおう、評価損を挽回してもらおうと考えて、原告X2に対し、本件前期、中期取引を勧誘したものであり、原告らに故意に損失を与えようとしたとか、専ら被告の利を図る目的で、右各取引を勧誘したとは認められず、本件前期、中期取引による原告らの損害については、当然原告側の過失相殺が問題となる。

原告らの前記主張は採用できない。

2  原告X2の重大な過失について

次の各事実に照らせば、Cの勧誘に従って本件前期、中期取引を行った原告X2にも、重大な過失があり、その過失の程度は、Cの過失の程度よりもはるかに大きいと認める。

(一) Cは、通り一遍のものであったとしても、一応は、ワラントが権利行使期限内に権利行使価格で新株を購入する権利であり、権利行使期限が過ぎると無価値になり、その価格は株価より値動きが激しいこと、また、外貨建ワラント価格は為替変動の影響を受けること、そして、ワラント価格は、権利行使期間が長い方が有利で、短くなるとゼロに近づくことや、ワラントの価格表示(ポイント)の意味と、その日本円への換算方法まで説明をしている(前記二3)。

(二) 原告X2は、Cから右不十分な一般的説明を聞いただけでも、ワラントが危険性の大きな取引であるらしいということ位は、容易に分かったはずである。ましてや、原告X2は、長年にわたる多種多様な証券取引の経験を有し、証券会社の従業員が勧める証券等が必ず利益をもたらすものではないことも、承知していたのであるから(前記二2)、原告X2自身、Cの説明に分からないことがあり、ワラントの商品構造、危険性を理解しきれないのであれば、疑問点等についてCに質問するなどして、自分でもワラントを理解しようという意欲と努力を示すべきであった。原告X2が、Cからいかに上手に勧誘され、その発言を信用していたにしても、右のような努力も払わず、取引内容を理解していないことを自覚しながら、なお、Cの発言を鵜呑みにした原告X2の態度には、投資家の自己責任原則に照らして、大いに問題がある。

(三) また、原告X2は、平成二年一一月九日までの間、保有ワラントの評価損の具体的金額ないし割合について、CやBから報告を受けることはなかったにしても、原告X2自身も、評価損が出ていること自体は認識していたのであるから、ワラントの現在価格ないし評価損額について積極的にCらに質問し、これを確認しておくことは容易であったにもかかわらず、これを怠り、自己の財産状況の把握をおろそかにした(前記二5(一))。かかる原告X2の態度は、長年証券取引を行い、株式時価等をチェックするだけの経験と能力を有していた原告X2にしてみれば(前記二2)、やはり問題がある。

3  過失割合、損害賠償額について

(一) 原告らの保有ワラントは、本件中期取引当時、多額の評価損が発生していた。また、本件中期取引のワラントは、高プレミアム・マイナスパリティーワラントばかりであった。本件中期取引勧誘に際しての説明義務違反は、本件前期取引での説明義務(4)ないし(9)違反に加えて、原告ら保有ワラントに多額の評価損が発生していたのに、具体的な評価損額を告知しなかった違法と、高プレミアム・マイナスパリティーワラントの問題点、重大な危険性について、具体的に説明しなかった違法が加算される。つまり、Cの説明義務違反は、前期取引よりも中期取引の方が、違法性の程度が高い。

(二) 前記1、2、3(一)を考慮して、原告らの本件前期取引による損失については、原告側の過失を八割、被告側の過失を二割と認め、本件中期取引による損失については、原告側の過失を七割、被告側の過失を三割と認める。そうすると、被告に不法行為(使用者責任)による損害賠償金支払義務があるのは、次の各金額となる。

(1) 原告X1

① 損害賠償金 一二五四万七八四七円

・本件前期取引による損失額四八三七万六三六二円の二割である九六七万五二七二円

・本件中期取引による損失額九五七万五二五〇円の三割である二八七万二五七五円

・以上の合計一二五四万七八四七円

② 弁護士費用 一二五万円(①の損害賠償金の約一割)

③ 認容額 一三七九万七八四七円(①②の合計)

(2) 原告X2

① 損害賠償金 一〇六一万五五二〇円

本件前期取引による損失額五三〇七万七六〇一円の二割である一〇六一万五五二〇円。

② 弁護士費用 一〇六万円(①の損害賠償金の約一割)

③ 認容額 一一六七万五五二〇円(①②の合計)

(3) 原告X3

① 損害賠償金 一〇六一万五五二〇円

本件中期取引による損失額一九二五万八一四〇円の三割である五七七万七四四二円。

② 弁護士費用 五八万円(①の損害賠償金の約一割)

③ 認容額 六三五万七四四二円(前記①②の合計)

第四結論

以上の認定判断によれば、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告X1について金一三七九万七八四七円、原告X2について金一一六七万五五二〇円、原告X3について金六三五万七四四二円、及び右各金員に対する平成五年七月一六日(訴状送達の日の翌日)から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し、その余は失当であるから棄却する。

(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 木太伸広 裁判官 荻原弘子)

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